ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅱ

 太田インターから桐生に差し掛かる。高崎まで三十キロ程の地点だった。突然、右前方の車がスリップし、中央分離帯に追突した。その後ろに走行していたトラックが、急ブレーキを掛け輝明の車線側にハンドルを切った。その車は、輝明の前を走るワンボックス車に激突。
「わぁ~、危ない!」
 彼は大声を張り上げ、ブレーキを思いっきり踏む。だが、輝明の車もスリップして止まらない。仕方なく右にハンドルを回してしまった。案の定、彼の車はスピンしながら中央分離帯に追突し、反動で横転した。運命は、過酷な結果をもたらす。
 輝明は、横転した車の中から、迫りくる車の姿を目にする。それは、一瞬であった。激突の音と共に激しい痛みが体を貫く。
《ァ~ッ、グ、グゥ。痛てぇ~。なんで~、どうして~、オレなんだあ~》
 輝明は薄らぎぐ意識の中、絶叫した。亜紀の顔が霞む。
《亜紀さん、亜紀さんの顔が思い出せない》
 彼の耳に、ざわめく人々の声が微かに聞こえる。その声も耐え難い痛みに消された。
《ウ~、体中が痛い。ウ~ッ、・・・》
 亜紀たちは、ドバイ空港のロビー内に、経由のため長く待機させられていた。マルコスが亜紀を急かす。
「マルシア、気になるんだったら電話すれば・・。早く・・」
「そうね・・、でも、日本は夜中よ。ブラジルに着いたら、掛けるわ」
 亜紀の心は妙に乱れ、胸苦しさを感じる。
《なんだろう、この胸騒ぎは・・。嫌だわ》
 ドバイを発ち、十数時間のフライトは苦しかった。サン・パウロのグァリュ―リョス空港に到着。空港のタクシーを利用して、マルコスと一緒に家へ帰る。心身ともに疲れ果て、入浴を済ませると直ぐに寝入った。
 枕元の携帯の着信に起こされるまで、夢の中にいた。輝明が懸命に何かを伝えている。幾度も聞き返すが、理解不能な言葉が亜紀の脳裏に響く。その状況に、心が惑わされた。
《輝君、しっかり教えて! 何が言いたいの? ん? 何よ、この音楽・・、ああ、輝君の好きなスメタナのモルダウ・・》
 亜紀は携帯の着信音で目を覚ます。ベッドから起き上がり、電話に出る。
「もしもし、もしもし、亜紀さんですか? 亜紀さんですよね?」
 聞き覚えのない声が、携帯から聞こえてきた。
「は・・、はい」
 相手の切迫な声に、不審に思いながらも答えた。
「あ~、良かった。輝明の兄です・・」
 彼女は、相手が分かり胸を撫で下ろした。
「あっ、お兄さんですか? 分からなくて、ごめんなさい。でも・・」
 しかし、何ゆえに彼の兄が電話を寄越したのか、却ってまごつく亜紀であった。
「実は・・、輝坊が・・、輝明が」

×

非ログインユーザーとして返信する