続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)
成田空港の明かりが遠ざかる。雲間を通り過ぎると、満天の星が輝いていた。その星が涙で歪む。
「マルシア、悲しくて、泣いているの?」
「ううん、悲しい涙ではないの。涙には、沢山の意味があるのよ」
マルコスが、ポケットからティシュを取り出し亜紀に渡した。
「ありがとう・・。これでいいのかと思うと、何故か虚しくなったの」
客室乗務員が、夕食を配り始めた。滞在中に経験したことを、マルコスは限りなく話し続ける。お陰で、亜紀は意識を変えることができた。
食後のコーヒーを飲みながら、ふっと窓の外に目をやった。
《あっ、流れ星だわ。見える間に、お祈りすれば良かった。できなくて、残念ね》
亜紀の体が、ぶるっと震えた。
《何よ、この震えは・・。風邪を引いたかしら》
「どうしたの? 顔色が悪いよ」
「ん~、分からない。疲れたのかもしれないわ」
「長いフライトだから、早めに寝たらいいね」
「うん、そうね・・」
マルコスが自分の毛布を掛け、亜紀を眠らせる。
空港のデッキで亜紀の機影が消えても、輝明はしばらく動かなかった。
《虚しいなぁ。心に穴が開いたようだ。束の間の夢を見ていた気分だ》
輝明は重い脚を動かして、空港の駐車場へ向かう。冷たい風が首筋を撫でる。運転席に座り、大きく息を吸いゆっくり吐いた。
駐車場のゲートを出ると、白い雪が舞っていた。
《あれ、雪だ。高崎に帰るまで、積もらなければいいが・・》
湾岸道から首都高速に入る頃には、雪の量が増してきた。輝明はスリップに気を配り、慎重な運転をする。外環道に出たが、混雑していたので三郷から東北道へ向かう。慣れていない道だった。
《慣れない道に、この雪だ。肩が凝って疲れたなぁ~》
目の前が霞む。一度、サービス・エリアに寄って、熱いミルク・ティーを買って飲んだ。半時ほど車中で過ごし、疲れを癒す。
サービス・エリアを出ると、東北道から北関東道に入った。雪は本降りに変わる。追い越し車線側を、猛スピードで走る車が多かった。
「マルシア、マルシア・・」
亜紀は、マルコスに揺さぶられ目を覚ます。
「マルシア、大丈夫?」
「アァ、マルコス~ね。あ~、怖かった・・」
「マルシアがうなされ、汗びっしょりだよ」
亜紀は、夢の中で輝明の姿を眺めていた。だが、輝明の姿が突然に消えて行く。亜紀に両手を差し出して、何かを叫ぶ。その瞬間に起こされ、目を覚ました。