恵沢の絆 ⅩⅢ 完
ホテルの部屋から、兄の家へ電話した。
「はい、金井ですが?」
「あ、お義姉さん? 輝久です。高崎に着きました」
「ああ、お疲れ様。長旅で疲れたでしょうね。今は、どこに?」
「駅前のホテルです。しばらくしたら、病院へ行きます。貴志君に伝えてください」
「まあ、そうなの・・。今まで病院にいたのに・・。でも、どうにか間に合ったようね。良かったわ。輝ちゃん、ありがとう・・」
私は、そっと受話器を置いた。
上着の内ポケットに手を触れた。孫のモニカから預かった手紙が、大事に納めてある。ブラジルを離れる空港で、見送りに来た彼女から渡された。機内で密かに読むと、日本語学校で習った日本語の手紙であった。私の心は熱くなり、兄の喜ぶ顔を想像する。兄の恵沢の絆が受け継がれていると確信した。
【じいちゃんのお兄さんへ。
一度も会ったことが無いけど、元気になってくださいね。
じいちゃんが悲しみますよ。
神さまに、お祈りしています。 ブラジルのモニカ・サオリ】
病院の受付で、兄の病室を確認する。五階の五号室。エレベーターから降りて、静かな廊下を歩く。兄の部屋から、年配の看護師が出て来るところであった。
「今晩は、兄の容態はどうでしょうか?」
「あら、ブラジルの弟さんですね。難しい状況ですが・・」
「今、部屋に入れますか?」
「どうぞ、あなたを待っていますよ」
看護師は目礼すると、ナース控室へ戻って行った。部屋の戸口が、少し開いている。私は、そっと中を覗く。薄明りの下、ベッドに横たわる兄の姿が目に入った。臆病風に吹かれた両足を、力ずくで病室内へ押し込む。
「兄ちゃん・・」