ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   恵沢の絆   Ⅹ

 数年後、日系三世の女性と結婚し、三人の子の父親になる。
 残念なことに、私が望んだスカウトの開拓農場は既に閉鎖されていた。先輩たちは、其々に活躍できる日系社会の職場で働いている。私は、数人の先輩と日系子弟のボーイ・スカウト隊を結成。私が初代の隊長となった。
 大自然を活用するブラジルのキャンプは、特に厳しい規制はない。日本ではとても考えられない環境であった。もちろん、危険が伴う毒蜘蛛(タランチュラ)や毒蛇が潜んでいる。隊長として、最善の注意を必要とした。
 スカウトの子供たちが寝静まった後、焚火の暖を取りながらコーヒーを飲む。見上げる夜空には、限りない数の星が降り注ぐ。山の静寂に焚火の弾ける音、自分の呼吸だけが生を感じさせた。
 地区のリーダー会議に出席。アメリカ、イギリス、ルーマニアなどの出身者が参加する。特に親しくなったイギリス出身の友人に誘われ、イギリス人子弟の学校へ訪問したこともあった。ルーマニアの神父が口ずさむ曲は、懐かしい日本の曲。
 不安な気持ちでブラジルへ移住したが、生活も安定し平穏な日々が続く。そんな時、七十六年周期のハレーすい星が地球に再接近。私は子供たちにすい星を見せるため、郊外のヤクルト農場へ出掛けた。
 周りには民家も無く、真っ暗だ。星だけがチカチカと光り輝いている。天体望遠鏡で覗くが、今回のすい星は尾がはっきりしていない。ようやく、綿菓子の塊のようなすい星を発見。
「すい星は、大事な人を連れ去るという話があるんだよ」
「え~、信じられない・・」
「もちろん、それは迷信だよ」
 それから数か月後の六月。ブラジルは真冬の季節。居間でテレビを観ているときに、電話が鳴り響いた。受話器を耳に当てると、国際電話のオペレターが日本からと伝えた。
「もし、もし・・、輝久かい?」
 年老いた父の弱々しい声が聞こえてきた。
「うん、俺だけど・・」
「・・・」
「オヤジさん、何か用なの?」
「よ、洋子が・・」
 姉、洋子の顔を思い浮かべる。
「えっ、姉ちゃんが、どうしたって?」
「輝ちゃん?」
 父の代わりに、兄の声が耳に伝わった。
「うん、そうだよ。姉ちゃんに、何があったの?」
「実は、二ヵ月前の四月に、病院で亡くなっているんだ」
「な、何? どうして? なんで?」
 突然のことに、私の脳は歯車がかみ合わない。思い浮かべた姉の顔が、夢幻として消えた。

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