ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

   恵沢の絆   Ⅷ 

「僕は、この印刷会社を始めて、良かったと思っているんだ。オヤジさんが一番満足している。自分の仕事のように、生き生きとしているだろう」
「じゃあ、兄ちゃんの生きがいは・・?」
「もちろん、ボーイ・スカウトだろうなぁ。この十五年、色々なことを学び教えられた。それに、会社を始めるきっかけにもなったからね」
「あとは、お嫁さんを探すことだけ・・」
「アッハハ・・、そうだな・・」
 私は、素直に謝った。
「いや、いいよ。些細なことで弱気なり、挫けてしまう人が多い。自分が納得するまで行動する。これからの時代は、必要なのかもしれん。お前のように・・。しかしな、準備しないで適当に行動するのは、好ましくない。備えよ常にだ!」
「うん、綿密な計画、大胆な行動だね・・」
「そうだ! とにかく、お前も高校へは行くべし。僕だって学歴のことが、一番悔しい思いをしている。頭は決して悪くないのに、残念なことさ。ワッハハ・・」
 兄の豪快な笑い声に、父が工場から顔を覗かせる。
「最後に、もう一言。産まれてきたこと、この世に生きることは、毎日が奇跡の連続だ。だから、産まれたことに感謝。大切に生きる。老いて死ぬ時に、嘆き悲しまず後悔しない。僕と洋子ちゃんは、お前と奇跡の絆で結ばれているんだよ」
 後ろ向きに片手を振りながら、工場へ行ってしまった。しばらくの間、兄の言葉を心の中で繰り返し考えた。
 ブラジルの細江先生宛に、自分の思いを素直に書いて送る。夏休みが終わり新学期が始まったが、私は進学先を決めかねていた。九月の半ばに、縁取りが黄色と青色のエア・メールが届く。差出人は細江先生であった。私は急ぎ開封する。
 文面を一字一句漏らさずに読む。先生の優しい言葉がびっしりと書かれてあった。残念なことに、今後のスカウト移住は継続されない。ブラジルは農業から工業へと変わり、工業知識のある人を優先的に移住させるという。
「ブラジルに移住したいと思うなら、工業移住の道を選びなさい。微力ですが、協力を惜しみません。金井君に会えることを、楽しみに待っていますよ。細江より」
 私は、工業高校の電子科に受験を決める。翌年に、兄は結婚した。姉も直ぐに結婚して東京へ。私は予定の工業高校に合格できた。高崎駅近くに移った兄の印刷工場から、高校へ通う。保証されていない夢の実現に、前を向いて歩くしか方法はなかった。
 それから八年後、私は工業技術移住の資格でブラジルへ渡ることができた。だが、細江先生の診療所は閉鎖され、近郊の別荘で療養中であった。その後、生活に慣れるまで時間が過ぎてゆく。
 私は、知り合いの紹介で日本人宅に下宿を替える。すると、下宿先の子供が日系スカウトのカラムル隊に所属していた。後日、その集会に参加する。日系二世のワタセ隊長を紹介され、隊長に細江先生の消息を尋ねた。
「それなら、来週の日曜日にカラムル隊が訪問するよ。一緒に行きますか?」
「もちろん、同行させてください」

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