ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

   恵沢の絆   Ⅱ

 単車に乗る時は、兄とお揃いの皮のヘルメット。白いウサギの毛が縁取られ、風で顔の肌をくすぐる。私の楽しそうな姿を、羨ましそうに見送る七つ上の姉。その姉も、恐らく寂しい日々を送っていたはずである。
 夏休みの姉が、不意に保育園へ私を迎えに来た。園長から早退の許しを得ると、俯くままに私の手を握る。姉が通う東小の校門の前。突如、姉が泣き出し、私を抱きしめて放さない。
「ごめん。姉ちゃんが悪いの。ごめんね・・」
「姉ちゃん、苦しいよ。ねぇ、放してょ~。く、苦しいんだからさぁ・・」
「ごめん、ごめん。あそこを・・、見て!」
 姉は私を離してから、道路の中央を指で示す。そこには、五歳の私でも理解できる、血の痕跡が生々しく見えた。
「なんの血なの?」
 私は不思議な感覚で見詰め、姉に尋ねた。
「うん・・、あれは・・ね。チロの・・血よ」
「えっ、どうして?」
「車に撥ねられて、死んじゃったの。校庭で遊んでいたのに、急に門の外へ・・」
「バカ、バカ、姉ちゃんのバカ! 姉ちゃんなんか大嫌いだ!」
 私は大声で叫びながら、家へ走り帰った。
 それ以来、姉を疎ましく思う。些細なことでも、口喧嘩をした。時には、姉の学生カバンを外へ放り投げたこともあった。だが、中学生になった姉は、哀しい顔を見せても母の代わりに世話をする。その姿に、私の幼心は切なさを感じ後悔した。
 母は日増しに痩せ衰えて行く。私の知る母の姿であったが、兄や姉は元気な体の母の姿を知っていた。私には想像がつかない。
 兄は常に母を労り、母の悲しみや苦しみを共有していた。それを、密かに心の奥に抱きしめている。
 兄が小学五年生の時に、三歳下の弟が理不尽な理由で引き裂かれた。気弱な父は、いとこである妻の実母から、母の妹夫婦へ半ば強制的に養子縁組させられた。実母は常に妹を弱愛し、女学校まで通わせる。母は無慈悲な実母を恨んだ。
 母は時折、約束事を破り、次男が通う小学校へ行く。校門の陰からこっそりと見詰めていた。その度に、実母と妹から叱られたという。その母の姿と心中を、兄だけが知っている。
 母の心の傷が癒されないまま、次の悲しみが重なるように起きてしまった。
 兄のすさぶ時代の少年期。十五歳の兄にとって、心を慰める唯一の妹が死んだ。あどけない五歳の八重子が、町内の子供に鉄の塊で胸を強打されたからだ。
 戦時のため、まともな治療を受けられずに亡くなった。慈しむ心を打ち砕かれた兄は、母の苦衷を深く心に受け止め、無情の世を愁いたのである。

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