嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅧ
彼女の言葉は、説得力のある言葉であった。黒ピカやゴキジョージは、黙って聞くしかない。
「でも、愛することは、好きを越えた次元の異なる普遍的な感情なの。男女の愛、家族の愛、子弟の愛など。私とセニョール・ゴキータの愛は、仲間の愛なのよ」
「ちょっと待って、なんなの、その普遍的な感情って? 格好いい言葉だけど、オイラにはぜんぜん意味が分かんないよ」
《なんと見事な真髄を極めている。それも的確な言葉。だけど、ヤツには無理だろうな。理解するには経験不足だと思う》
「クロピーカ! 今のあなたには、理解できないかもしれない。でも、必ず理解するときが、やって来るでしょうね。普遍的な感情の意味は、誰もが共通する心の動きなの。
ただ、愛は好きより意味が深く、外見に囚われず心の奥から自然と湧き上がる感情よ。無理やりに感じることではないの。分かったかしら?」
黒ピカは、懸命に考えていた。しかし、ヤツらしい答えを導いた。
「うん、なんとか分かった気がする。例えば、目の前に饅頭がある。オイラの好きな饅頭だから美味しいと思うより、温かく心を込めて作った饅頭だから、美味しいと思う。その違いかな?」
「うふふ・・、クロピーカ。あなたらしい答えね。そうね、そうかもしれない。見た目で判断して、毒饅頭の罠に騙される仲間がたくさんいるわ」
「実はオイラの家族も、弟が持ち帰った毒饅頭を食べて死んだ・・」
《お、お前は知っているのか? 家族のことを・・》
「黒ピカよ、人間にも普遍的な愛という感情は存在する。ただ、人間どもの愛は、憎しみや妬み、高慢などを生み出し互いに傷つけあう。時には、相手を死に至らしめる感情に変化させる。
しかしだな、ワシらの仲間には、無情な仕打ちに変化する感情を持っておらん。
ワシもセニョーラを仲間として愛している。事実だ。ただ、ゴキ江に対する愛とは、ちょっぴり異なる愛だが・・」
「リーダー、ゴキ江さんに対する愛は、本物ですね。オイラのゴキ江さんに対する愛は、仲間の愛ですから心配しないでください」
《むむ・・、お前らしい解釈だ。仕方ない、いいだろう》
「セニョーラ、ごめんなさい。からかったことを許してください。私もあなたが好きです。ハワイに帰ったら、あなたに似た仲間と結婚します」
「嬉しいわ、ゴキジョージ! 必ず幸せにしてね。バイ・コン・デウス(神のご加護を)あなたも立派なリーダーになれるわ。クロピーカと協力して、仲間のために頑張ってね」
「はい、セニョーラ。リーダー・ゴキータ、大変失礼しました」
「ああ、いいよ。もう、忘れなさい」
そこへ、実行委員が分科会の報告がまとまったことを、マリアブリータに告げた。