嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅦ
休憩時間が過ぎ、分科会が始まる。各グループがまとめる内容を、ワシは楽しみに待った。その様子を眺めていると、ミスター・ブリジョンソンとセニョール・ゴキペドロが通訳を伴って、ワシの所へやって来た。
「世界本部から、リーダー・ゴキータに特別顧問をお願いする。なにとぞ、就任を受けて頂きたい」
「え~、ワシが、ですか? ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。ワシが特別顧問にですか?」
「イェス、是非とも承知をお願いする。プリーズ!」
「セニョール・ゴキータ! お願い! 引き受けてください。私たちにとって、これからが大切な時代になると思われます。世界の仲間を教え導けるのは、あなたしかいません」
マリアブリータの言葉に、ワシは身震いをした。
「しかし、ワシの夢は家族と静かな日々を暮らすことだ。人間どもの生活環境から離れ、気兼ねなく陽を浴び平凡に生きる。儚い望みかも知れないが・・。細やかな幸せを感じ、天命を全うしたいのだ」
「それは、誰もが望むこと。私も考えています。ですが、優れた知恵と洞察力を備えた仲間は、セニョール、あなたしかいません!」
「う~ん、弱った。ワシの命も、そう長くはないからな・・。ご期待に添うか、疑問だ」
「では、セニョールからクロピーカに指示を出し、彼が他の仲間と活動をする。どうかしら・・」
「・・! もしかしたら、可能かも・・」
「でしょう? 彼ならできると思うわ。そうしましょうよ」
ワシは、渋々と特別顧問を受けることにした。ただ、黒ピカの対応力の可否を条件にする。帰国するまでに、ヤツの成長を期待するしかない。
ワシが申し出を引き受けたので、三者は大いに喜びハグを交わした。もっとも力強く交わしたのは、マリアブリータであった。ワシは嬉しさと恥ずかしさで顔が火照る。
《愛しのゴキ江、許してくれ! 断じて浮気ではないからな・・》
マリアブリータも顔を赤らめ、俯いたままだ。そこへ、タイミング良く黒ピカのグループが寄って来た。
「あれ、どうしたの? お互いに顔を赤らめて・・。なあ、ゴキジョージ」
「まさか、愛の告白・・?」
「な、な、なんと・・。言葉を慎め・・。お、大人をからかうな! セニョーラの名誉のために裁判所へ訴える。絶海の孤島へ流刑だ~!」
ワシは焦り、狼狽える。
「いいえ、私はなんとも思わないわ。そのように見られて嬉しいもの。だって、私はセニョール・ゴキータが好きよ。愛しているかも知れないわ。変かしら?」
その場の全員が、唖然として言葉を失う。一番驚いたのは、ワシだ。
「相手が誰であろうと、好きになる行為は大切なことよ。私たちは、人間から意味もなく嫌われている。それなら、せめて仲間同士だけは、好きという行為や感情を自然に持つべきでしょう」