嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅤ
「いつの日か、人間どもによって、生き物の住めない地球にされてしまう。人間どもは宇宙開発と偽り、ヤツらだけが助かる、別の星を探しているらしい。このワシらの大切な地球を、助けるつもりはない! 捨てて逃げるつもりだ! 本当に卑怯なヤツラだ! 人間どもには頼る神や仏がいるが、ワシらには頼る神はいない!」
ワシは我を忘れ、興奮して怒鳴ってしまった。会場も大騒ぎだ。
「ジャパニーズ、あんたが我らの神だ!」
「ハポネース、救いのデウスだ!」
「そうだ、そうだ、ワイワイ、ガヤガヤ・・」
《あっ、しまった! これは、まずい》
マリアブリータが、興奮する会場内を制止させようとする。だが、一部の仲間が激しく騒ぐ。
「静かに! 皆さん、静かにしてください!」
演壇の近くにいた黒ピカが、猛スピードで騒ぐ仲間に向かって行く。その後ろには、ゴキジョージの仲間たちも走っている。
「よ、よせ! やめろ、喧嘩はダメだ!」
ワシは叫び、止めに行こうとする。隣にいたマリアブリータが、ワシを押さえ黙らせた。
「待って! クロピーカは、争わないで必ず鎮めるわ。私は信じている・・」
黒ピカと先頭で騒ぐ仲間が、対峙したまま微動だにしない。ただ、ヤツの触角だけが引っ切り無しに動く。会場全体が固唾をのみ動静を見守る。五分、十分と重苦しい時間が過ぎた。
相手のピーンと鋭く立つ触角が、穏やかに下へ向き始める。黒ピカが一歩前に出て、両方の触角が絡む。周囲から歓喜の声が上がった。
その様子に、ワシは感情を抑えられず、隣のマリアブリータを抱きしめた。
「やりましたね、セニョール・ゴキータ。彼なら信じられる。良かったわ・・」
マリアブリータがしなやかな触角を叩き始めると、会場内も徐々に連鎖し称賛を浴びせた。
「黒ピカよ。お前はどんな話をして、和解ができたのだ?」
演壇の下へ戻った黒ピカに、気になっていたことを聞いた。
「いや、何も話しません。相手の目を見て、石に電信柱でした」
「えっ? ・・」
ヤツの思いがけない答えに、ワシの体も脳も固まってしまった。
「オ・ケ・アコンテッセウ(どうしたの)?」
「あ、いや、問題ないです」
《信じられん。ヤツは言葉を使わずに心を通わせたのか・・、本当に・・》
「そう、じゃあ、続けましょう」
「はい、いいですよ」
「それでは、セニョール・ゴキータの演説を再開します。終了後に分科会を行ないますので、宜しくお願いします」