嫌われしもの 遥かな旅 ⅡⅩⅢ
「え? チーズが嫌いなの? 面白い、うふふ・・。でも、セニョールもブラジル語が話せますね? どちらで・・」
「ワシは、単語を並べるだけです。棲み処がセントロ・コムニターリオ・クルツラール(中央公民館)という場所で、ポルトガル語の授業を聞いてました」
「それは、素敵ですね」
ワシは輪の中心にいる黒ピカを見詰める。
「いや、ワシの連れの黒ピカは、この旅で、色々な言葉を覚えてしまった。それも、アマゾンのインディオ語まで・・。驚きですよ。ウフフ・・」
「セニョールは、心からクロピーカがお好きなのですね」
「はい、最初は心配していましたが、この旅で成長する姿が好きになって・・。とても嬉しく幸せです」
「確かに、仲間の中心にいますね。日本支部から、セニョールとクロピーカの推薦状が届いたときから、私は心待ちにしていました。期待どおりの方々で、良かったわ。彼は、あなたの後継者に選ばれそうね」
「オブリガード(ありがとう、男性の言葉)、セニョーラ・マリアブリータ」
「いいえ、こちらこそ。オブリガーダ(ありがとう、女性の言葉)、でも、彼にセニョールの面影が感じられるわ。思い過ごしかしら・・」
《いや、いや、参ったなぁ》
進行係りが、マリブリータを呼ぶ。
「エスタ・ベン(分かったわ) セニョール・ゴキータ、準備は宜しいですか?」
「ああ、問題ない」
「では、行きましょうか?」
ワシは、黒ピカに声を掛け壇上へ向かう。
「おい、黒ピカ! ワシは講演に行くからな・・」
「アッハハ・・。はい、はい、リーダー。皆と一緒に聞いていますから、頑張ってください」
《まあ、いいや。どうせ、話の意味など理解しないだろうから・・》
「ただ今より、日本支部代表のセニョール・ゴキータをご紹介します」
マリアブリータが伝えると、会場内は触角を叩き合い騒然となった。
「み、皆、うっうん。ゴッホン!」
うまく声が出ない。会場がシーンと静まり返る。ワシは咳払いをして、喉の調子を整えた。チラッと黒ピカの様子を窺うと、心配そうにワシを見詰めている。
「皆さん・・、日本のゴキ太です」
どうにか、話すことができた。
「ワ~ッ、ワ~ッ」
会場内が再び盛り上がる。
「ありがとう、センキュウ、オブリガード、メルシー、グラシアス、シェイシェイ、ダンケ、スパシーバ、コクン・カップ、コマッスミダ、マハロ・・。それでは・・、ワシの話を聞いていただきたい」