嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅨ
「でも、オイラは勉強をしたい。この旅で自分の知識が足りないことを知り、リーダーを目標に頑張りたいと思います」
「照れることを言うな! 旅はまだまだ続く、多くを感じて学ぶことが成長だ。それが、この旅の大切なお前の目的だよ」
「はい、リーダー。しっかり成長します」
《ワシは嬉しいぞ。一緒に旅をしながら、お前の成長を見て行けるとは・・》
サントス港は、リオ港から南へ四百キロ。海岸山脈が目の前に広がる港は、コーヒー出荷と多くの移民を受け入れたことで知られている。翌日の早朝、そのサントス港に入港した。
冬の冷気を含んだ風が、ワシらを出迎えた。
「リーダー、今は夏なのに、冬みたいな寒さだ」
《おっ、また疑問が始まったな》
「黒ピカ、ブラジルは南半球だ。北半球の日本が夏なら、ブラジルは冬だ。だから、日本が夏なら、ここは冬に決まっている。常識だ、分かったか?」
「ん? ベレンはブラジルだけど、真夏だった。リオは、これほど寒くはなかったよ」
「ふーっ、ブラジルの国土は広く、日本の二十四倍も大きい国だ。ベレンは赤道に近く、アマゾン地域だから常に夏の気候のままだ。南半球は、南に行くほど気温が下がる。ムフフ・・、日本とブラジルは昼と夜も反対だよ」
黒ピカは目を見開き、上下左右を忙しなく見回す。
「え~、なんで~? どうして~? 上と下、右と左も違うの?」
「いや、それは同じだ。これは太陽と地球の自転に関連しているからだ。このお陰で、地球上のすべての生物が、生きて行ける自然の法則だよ」
「オイラには・・、何がなんで、何がどうして。もう、分かりましぇ~ん」
ヤツは頭だけでなく心も吹っ飛んだ。
《止めた。いずれ、分かるだろう・・。ん! 待てよ。死ぬまで理解できないかも。いや、いや、ワシの血を受け継いでいる。大丈夫だろう・・》
昼近くになると日差しが強くなり、気温が上昇した。仲間たちは寒さから解放され、行動がスムーズになる。一気に下船を始めた。
ただ、埠頭の網の目に広がる線路が、素早い行動を妨げた。やむを得ず、人間どもの目を掠め、バラバラに行動する。閑散としたコーヒー貯蔵倉庫が、大会会場であった。
「皆さん、突然に変更となり、申し訳ございません。ジカ熱は冬のために落ち着きましたが、厳しい検疫は続いております。リオ港で強行下船した仲間たちは、全員が殺害されました。非常に残念ですが、ご報告いたします」
ブラジル支部の実行委員兼司会のマリアブリータから、挨拶と報告が行われると会場から悲痛の声が上がる。
「え、えーっ、本当なの。気の毒に・・」
「なんと悲しく痛ましいことだ。苦労してブラジルまで来たのに・・」
「そうだ、そうだ。この大会は、延期すべきだった」