嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅤ
「ん? 何が横に・・」
振り向くと、腰が抜けるほど驚く。なんとワシらより数倍大きい仲間がいた。黒ピカは、恐ろしさに固まって動けない。相手は、ワシらをジッと探る様子で見ている。
長い触角で、黒ピカに触れようか迷っている。ワシは、どうも女の子らしいと気付く。慣れないスペイン語で話し掛けてみた。
「オラー、セニョリータ!(こんにちは、お嬢さん)コモ エスタ?(いかがですか?)ヴィエロン エル ハポン(日本から来た)・・」
「エッ、エル ハポン?」
相手が反応したので、言葉が通じたとワシはホッとする。ワシの横では、黒ピカが目をパチパチと忙しなく動かす。女の子が触角を差し向けると、逃げ腰になった。
「リーダー、もう船に戻りましょうよ」
「うん、そうだな。帰ろう・・」
市場を出てバス停に向かう。気配を感じて振り向くと、女の子がワシらの後を追い駆けている。
「アミーガ(女性の友)、テネモス プリッサ(ワシらは急いでいる)イール ア ブラジル(ブラジルへ行く)ロ シェント(残念ですが)アディオース(さようなら)・・」
「エスペーラ(待って)ポル ファボール ソッコーホ(お願い、助けて)・・」
体を震わせ、悲しい声で叫んだ。
「えっ、この子、何か事情がある様子だ。リーダー、どうします」
「仕方ない、船へ連れて行こう。誰かが、通訳してくれるだろう」
「そうですね」
「ベンガ コミーゴ(私と一緒に来なさい)・・」
「ムイ グラシアス(ありがとう)・・」
この体格では、人間どもに発見され易い。港に着いたら日が暮れるまで待ち、タイミングを見計らって一気に乗船しようとワシは考えた。船に近い倉庫の隅で、様子を見ながら待っていた。出港の汽笛が鳴った。ワシらは急いでタラップを駆け上がる。
仮の棲み処は小さく彼女には無理だと思い、デッキの救命ボートへ連れて行く。黒ピカが、ゴキジョージたちを呼びに行った。
「ミ ノンブレ(ワシの名前は)ゴキータ。 ス ノンブレ(あなたの名前は)?」
「ブリ―リア、コロンビア―ナ」
「コロンビアのブリ―リア・・」
黒ピカは、ゴキジョージとメキシコ出身のブリカーノを連れて来た。ブリーリアがコロンビア出身と聞いて、首を傾げる。同じスペイン語だが、国によって表現が異なる場合もある。いずれにしても、どうにか彼女の事情を聞き出すことができた。
ブリ―リアの説明では、コロンビアの仲間はペット・フード用に捕獲され、欧米諸国へ売られている。彼女も掴まったが、逃げ出してあの市場で隠れていたという。
「え~、ペットにされないで、食用だって? 誰が食べるのさ?」
黒ピカが驚き、怒りを露わにした。