嫌われしもの 遥かな旅 ⅩⅣ
シャワー室から顔を見せたのは、黒ピカと友達になったハワイのゴキジョージであった。
「アローハ、ジャパニーズ・リーダー!」
「やあ、アローハ! ゴキジョージ、大丈夫でしたか?」
「はい、ハワイのメンバーはノウ プロブレム(問題ない)あなたのお陰です。マハロ(ありがとう)」
「いや、とんでもない。ところで、黒ピカを見ませんでしたか?」
「クロピーカ? ああ、キッチンにいましたよ」
《なにぃ、キッチン? ヤツは何を考えているんだ》
「マハロ、ゴキジョージ!」
ワシは怒りと心配で、急ぎキッチンへ向かう。薄暗い中をソーッと覗いたが、黒ピカの姿はなかった。前の棲み処に立ち寄る。隅にうずくまる黒ピカを見つけた。ヤツは体を小刻みに震わせ、ひとり悲しみに泣いていた。
「ここに、いたのか。心配したぞ。ん? どうして泣いている?」
「ウウ・・、アメリカから乗った・・、仲間・・、無残な姿を見て・・。ウウ・・、知ら・・、ウウ・・、遅かった。オ、オイラの・・、責任だ~」
「そうか、残念だな。お前は本当に心の優しいヤツだなぁ。でも、お前の責任ではない」
《黒ピカよ。この試練は、お前に大切なことを教えている。決して、無駄ではない。喜びの感情は、心を寛大にさせる。しかし、仲間を悼む心は、無限の強さをお前に与えた。より強くなれ!》
翌日、太平洋からパナマ運河を抜け、カリブ海へ。パナマ運河は熱帯雨林に囲まれ、山脈中央のガトゥン湖を活用した雄大な景色であった。その光景を眺めたワシは、建設した人間どもの知恵と大自然の力に圧倒される。
ほぼ半日を掛け、ゆっくりと運河を通過した。カリブ海側のコロン港に停泊する。ここで荷を降ろす作業が始まった。ワシは直ぐに下船することを、黒ピカに伝えた。
「間違いなく、本当に下船できるのですね?」
「そうだ、中米の国を見学する。行くか?」
「勿論です。やっと、外国が見られる。良かったなぁ」
黒ピカは、子供のように顔を輝かせ、翅を広げて喜ぶ。
急ぎ下船するとバスの下に隠れ、港から近いクリストバルの町へ行く。十分ほどで着いた。
「どうだ、黒ピカよ」
「はい、リーダー。珍しいフルーツを試食したいです」
「そうだな。ワシも試食したい」
中央食品市場には、刺激の強い中米特有の匂いが満ちていた。黒ピカの腹がグルグルと鳴り、ワシの腹にドンドンと響く。
無我夢中で食べているワシの背中を、黒ピカの触角がチョンチョンと叩く。
「なんだ! 忙しいのに・・」
「リ、リーダー! オイラの横に・・」