嫌われしもの 遥かな旅 Ⅶ
「はい、十分に気を付けます。カラスは大嫌いだ。いつもオイラを『バカカァー、バカカァー』と、鳴いて騒ぐ。オイラは、とっくの昔から承知の介だい!」
「アッハハ・・。あ~、腹が痛い。なんとも変わったヤツだな。ハハ・・」
東京湾に近づき、釣り船や観覧船が目まぐるしく行き交う。小さなヨットは船のさざ波に煽られ、落とされまいと黒ピカが必死に耐えていた。しばらくして、周辺の景色を眺める黒ピカが、妙な動作をする。
「おい、具合が悪いのか?」
「リ~ダ~、オイラ~、もう、ダメだ~。あっ、あっ、目が回る~」
「しっかりしろ、キョロキョロするからだ。ご馳走だと思って、茎だけを見ていれば大丈夫だ」
「は~い。あぁ~、うまそうな茎だ~」
空に上弦の月が輝き、小さな頼りない葉のヨットを照らす。無事に東京湾へ流れ着く。予想外に簡単だったと、ワシは胸を撫で下ろした。
《後は、潮の流れに任せるしかない。幸いにも、横浜方面へ向かっている。ゴキ江は、どうしているかなぁ・・》
波に揺られ、二匹はしばし考えを巡らせる。
「リーダー。貨物船には、食事や隠れる場所はありますか?」
「ああ、食堂にはご馳走がある。船はお前が想像するより大きい、だから隠れる場所は心配ない。船乗りは海の男だから、ワシらを見ても無視するはずだ」
「それなら安心ですね。良かった」
「なんだ、そんなことを考えていたのか。くだらん!」
「じゃあ、リーダーは何を思っていたのですか?」
黒ピカが、ムッとした顔で聞く。
「最愛の妻や子供たちのことさ・・」
「な~んだ。そんなことを・・。奥さまは美しく賢いから、子供さんたちを必ず守るでしょう。オイラが保証します」
「なんで、お前が保証するのだ。可笑しなヤツだな。ワッハハ・・」
「奥さまに手紙を渡したからです。え? あっ、まずい! 言っちゃった~」
「ナニィ~、ラブ・レターを渡した~だと~」
愛するゴキ江の喜ぶ顔が浮かび、ワシは絶対に許せんと黒ピカを睨む。
「ち、違います。ラブ・レターでは、決してありません。仲間へ渡すよう頼みました。内容は、リーダーの家族を守れと指示したのです。本当です。リーダー、信じてください」
黒ピカは必死に説明した。
「それは、本当なのか?」
「はい、神に誓って間違いありません」
「そうか、そうか。嬉しいぞ。ウッウウ・・」
《お前の優しい心遣いは、母親と同じだ。泣ける・・》