嫌われしもの 遥かな旅 Ⅵ
冷や冷やしながら見ていたワシは、何故か神様に祈ってしまった。祈りが通じたのか、黒ピカはようやく着地ができた。
「さあ、出発だ。茎にしっかりと抱きつけ! この茎なら、葉の養分を吸える。少しは腹の足しになるからな」
「は~い、リーダー。だけど疲れたなぁ~」
夜明けと共に、長い未知の旅が始まった。果たして、無難に目的地へ辿り着くことができるのか、ワシは心配する。神様でも保証をしないであろう。
ヨットは川の流れに任せ、ゆらゆらと下る。時折、浅瀬の波にザブ~ンと大きく揺さぶられた。
「リーダー、怖いですよ。落とされたら川の中です。オイラは泳げません」
「また怖気づくのか? 困ったもんだ。ワシらの体は絶対に沈まん。プカプカと浮いて、岸に近づけば問題ない」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。だが、落ちたら魚やナマズに食われてしまう」
「え~、嫌だ。食べられるなんて、オイラは嫌だ」
「嫌なら、しっかりと茎を放すな!」
「はい、はい、リーダー。放しませんから、ご安心ください」
夏の日差しが、徐々に強くなり始めた。利根川に合流したヨットは、桃太郎の桃のようにドンブラコ~、ドンブラコ~と流れる。この揺れは眠りを誘う。ワシと黒ピカは、葉の日陰で昼寝と洒落こんだ。
川魚がチョンチョンとヨットの底を突くが、黒ピカはぐっすりと寝ているので気付かない様子だ。
太陽が西に傾き、ようやく暑さが和らぐ。
「黒ピカ! おい起きろ。そろそろ江戸川に入るぞ。お前の協力が必要だ。いい加減に目を覚ませ・・」
「ア~ァ、ところで~、何を~、手伝うのですかぁ~」
「欠伸なんかするな、早く手伝え! いいか、ヨットを右側に寄せ、江戸川に行くぞ」
失敗すれば、千葉の海に流され東北方面へ行ってしまう。そうなれば、ワシらの旅は終わりだ。もちろん、命の保証は無い。
「ガッテンだ!」
「合図したら、翅を大きく動かしてくれ。いいな!」
「よっしゃ、リーダーのためなら死んでも努力します」
「死んだら努力できるか! 生きて努力しろ。さあ、行くぞ!」
「ハイよ。母ちゃんのためなら、エーンヤドット」
「ゴキ江のためなら、エーンヤコラサ」
ワシと黒ピカは懸命にヨットを操作し、無事に江戸川へ流れ込むことができた。
「ご苦労、これで東京湾まで安心して行ける。ただ、都会のカラスを見くびるなよ。ヤツらは、要注意だ」