嫌われしもの 遥かな旅 Ⅰ
《これから始まる物語は、あんたら人間どもが、とても理解できないであろうワシらの世界だ。
この地球上に、ワシらよりもずっと後に現れた人間どもよ!
猿人(アウストラロピテクス)から旧人類(ネアンデルタール)、新人類(クロマニョン)に進化してきたと言われているが、ワシらだけが真実を知っている。でも、先祖さまの遺言で教えられない。
何故なら、美しく豊かな地球を我が物顔に振る舞う人間どもが、許せんからだ。三億年を平和に生きてきたワシらを、常に脅かし苦しめている。ワシらにも夢や青春がある。
この物語を読み、ワシらの苦悩や恐怖心を少しでも考えてくれ・・。恐らく十中八九無理と思うが、ワシら一族の細やかな願いだ。》
すっきり爽やかな真夏の夜遅く。
東京から北西へ百キロ離れた某地方都市。ほの暗い外灯がたった一つ照らす、誰も名前を覚えない小さな公園がある。
その公園に、人間どもから一方的に嫌われるものたちが、ぞろぞろガサガサと公園に集まって来た。しばらくして、彼らの臨時集会が始まる。
「日々、危険な生活を過ごしている諸君! 今日も無事に参加できたことを、感謝しようではないか。思い掛けない事故に遭遇した仲間には、残念だが、共に冥福を祈ろう。
アーメン!」
「アーメン・・」
「ブツブツ・・」
「なむあみ・・」
「さて、皆に重大なことを報告する。ワシが世界大会に招待され、講演することになった。来週、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロへ出発する。ワシが不在の間は、地区の責任者が仲間をまとめてくれ・・」
人間界では拍手が起きるが、ワシらの社会は翅や手足を擦りあわせ、ガサゴソと音をたてる。
「それは、素晴らしいことだ」
「そうだ、そうだ、我らのリーダー・ゴキ太!」
「キャア~、素敵だわ。ゴキ太さん、こっちに向いて~よ」
「ワイワイ、ガヤガヤ」
「いや、いや、ありがとう」
ワシは照れながら触角を振る。
「その大会には、世界中から集まるのですね? それで、リーダーは何を講演されるのですか?」
前列の若いブリ太郎が興味津々に、質問した。