漂泊の慕情 Ⅶ
ホテルをチェックアウト後、乙女の像の前で落ち合う約束をしていた。半信半疑で私が行くと、間違いなく彼は先に来て待っていた。彼の姿を見た瞬間、私の胸がキュンと締め付けられる。
「おはよう、昨晩は良く眠れましたか?」
「えっ、はい、良く寝ることができました。起きたら、とても爽快な気分でしたわ」
寝不足の顔を知られないよう、今朝は念入りなメイクをしたつもり。もしや、露見したと思い込みドッキとする。どうにか、体裁を取り繕う。
「そうですか、それは良かった。僕はなかなか眠れませんでした」
「それは、お気の毒でしたね」
「はい、恥ずかしい話ですが・・。あなたのことが気になって、一睡もできず。困りましたよ。アッハハ・・」
私は、彼の言葉や屈託ない顔と笑いに心が揺れ、本当に付き合いたくなった。
「まあ、ふふふ・・、それって、プロポーズかしら?」
「はい、そう考えても結構です。高崎に戻ったら、交際してください」
女性から口説くなんて、はしたないもの。助かったわ。私は密かに喜んだ。
「え~、本当に。じゃあ、喜んで・・」
交際を始めた時のことを、懐かしく思い浮かべる。それなのに、彼はどこへ行ってしまったの。
私は、もう一つの策を考えていた。最初に手紙を寄越した、友人に会う必要がある。彼の姉も同様に思っていた。私は手紙に認められていた会社へ、電話を掛ける。
次の土曜日の午後に、その友人は快く会ってくれた。彼の姉も同席する。東京駅八重洲口地下の喫茶店で会う。
友人の話では、突然に彼から連絡があり、相談を持ちかけられたという。彼が言うには、自分の病が心配で精神的に行き詰まり、将来に不安を感じている。
彼は、私のことが気懸かりで、目の前から消えることが最善と考えた。そのために、日本にいては決心がつかない。だから、友人に外国へ行くと打ち明けたそうだ。
私は、行き先を聞き出そうと執拗に尋ねるが、友人は頑なに教えない。彼の姉も弟の体を心配して、縋りつくように友人から聞きただす。しばらく平行のまま時間が過ぎた。
長い沈黙が続いた後に、友人は渋々ぽつりと一言だけ漏らした。
「ハワイ島です」
「それは、本当なのね!」
「はい・・、間違いありません」
「良かったわ。もうあの子ったら、しょうがないわね」
姉と私は、友人にお礼を言って別れた。
私は、ハワイ島へ行く決心をした。
「お姉さん、私はハワイへ行き、彼を探します」
「ごめんなさいね。私は家のことがあるから、行けないけど・・。
「平気です。一度行ったことがあるから・・」