ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

  漂泊の慕情  Ⅵ

 私は彼と交際してからの期間を、思い返す。三年前の夏に、十和田湖の奥入瀬渓流をひとり訪ねたとき、湖畔の乙女の像を眺めていた私に、横から声を掛けたのが彼だった。
「私は、この作者の道程という詩が好きなんです・・」
 彼の声は、囁くように静かな語り口であった。
「えっ? 高村光太郎の詩ですか・・。我が前に道は無し・・」
 突然に声を掛けられ、戸惑うも直ぐに言葉を返してしまった。
「あっ、いや、独り言でした。ごめんなさい・・」
「あら、私に話し掛けたと・・。私って、とんだ早とちりね。あ~、恥ずかしいわ」
「いいえ、僕が悪いのです。申し訳ない」
 私は彼の瞳を見て、一瞬に心が高鳴る。彼も、何かを感じた様子だった。私は悟られないように、小さく咳払いをして軽く頭を下げる。そして、何事もなくその場を離れた。
「あっ、待ってください。ご迷惑の代わりに、コーヒーでも奢らせてください」
 私は断るつもりだったが、彼の勢いに押されて承諾してしまった。近くの観光客相手の食堂で、私は彼と対峙してコーヒーを飲んだ。特に話す内容もなく、ただ黙って飲むしかなかった。
「僕は、ひとりでぶらっと旅をします。特に訳なんて無いのですが・・。ところで、差しつかなければ、どちらから来られたのですか?」
 特に差し障ることも無いと考え、私は答えた。
「はい、群馬県の高崎から来ました」
「え~、僕も高崎です。奇遇ですね!」
 彼の驚きは、私にまで移ってしまったほどである。
「うっそ~、本当なの。信じられないわ」
 確かに、この会話でふたりの間隔が、限りなく狭まった。最初の心の高鳴りが、継続的なものに移り変わった。
 それは、初めて経験する異性への関心が、私の心に芽生えた時であった。その後、一緒に奥入瀬渓流を散策する。彼は予め調べていた様子で、楽しく過ごすことができた。
 夜は、別々のホテルを予約していた。本音で言えば、少し残念に思う私であった。翌日の朝に改めて会う約束をして別れる。
 ひとりで過ごすホテルの夜。湯あみを済ませ部屋に戻る。畳部屋に敷かれた寝具。横になり心地よく体を伸ばした。
「わ~っ、疲れが取れそ~ぅ。でも、彼って感じが良さそう。高崎に帰ったら、付き合っちゃうかな。ふふふ・・」
 天井を見詰め、今日出会った彼を思い出す。気持ちが高ぶり、目が冴えてしまった。
「困ったわ。寝不足の顔を見せたら、変に勘ぐられてしまうかも・・」
 仕方なく、興味のないテレビ番組を見る。しばらくして瞼が重くなり、そのまま朝までぐっすりと寝ることができた。
 小鳥のさえずりで目が覚める。窓を開けると、清々しい空気が体を包む。
 

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