ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

  漂泊の慕情  Ⅳ

 仕事から家に帰るたび、あの手紙が気になってしまう。封を途中まで開けたが、決心がつかず止めた。破棄して捨てることもできない。机の引き出しの奥へ、目の前から隠すように仕舞い込んだ。
 最初の手紙が届いてから十日過ぎに、新たな手紙が届く。今回の差出人は、女性の名前であった。それも、彼と同じ名字が書かれてある。
「彼と同じ名前の女性って、誰かしら?」
 私は半信半疑ながら、恐る恐る封を開ける。
【拝啓 突然に、手紙を差し上げるなんて、驚かれたことでしょう。ごめんなさいね。
いつも、あなたのことを弟から聞いていました。素敵な女性で、いずれは結婚をしたいと口癖のように話していました。そして、近い内に、私に会わせると約束したの。
 それが、突然に、もうあなたと会わないからと告げられました。あれほど、あなたを愛していたのに、別れるなんて私には信じることができません。その後、弟は口を閉ざし、詳しいことを教えてくれませんでした。
 先日、緊急な用事があって、携帯に掛けても通信不能でした。弟の勤め先に連絡すると、私の知らない間に、退職をしていました。まったく理由が分かりません。
 どうか知っていることがあれば、教えていただけませんか。とても心配です。お願いします。
 誠にお見苦しいことを依頼し、恐縮に存じます。  かしこ】
 私は開いた便箋を持ったまま、文面から目が離せなかった。時の流れを忘れるほど、立ち続ける。窓の隙間風が、私の頬を撫でた。私は、ようやく時の流れに気付く。
「私だけでなく、彼のお姉さんまで理解できない行動なの。一体、彼に何が・・」
 私は、もう一通の手紙を思い出す。机の奥から取り出し、急ぎ内容を読む。差出人は、互いに悩みを打ち明ける仲の良い、気心の知れた彼の友人という。
 文面は乱雑だが、非常にショッキングな内容が書かれてあった。目の前が真っ暗になり、ソファに座り込む。私は動揺が収まるまで、少し横になる。
「あ~ぁ、どうして打ち明けてくれないの。恐らく、彼の優しい気持ちが、それを選んだのね」
 私は横になったまま、彼の優しい顔を思い描く。胸が締め付けられるほど、彼を愛しく思い詰めた。
「なぜ、何故なの。こんな不公平なんてないわ。これから、幸せになろうとしている私たちに・・」
 私と同じように心を痛めている彼の姉に、すぐさま電話する。手紙の文面下に、書かれてあった番号に掛ける。
 初めて聞く姉の声、互いに緊張した声が行き交う。私は、彼の友人から届いた手紙の内容を、トーンを抑えて告げる。やはり、内容を聞き、答える彼女の声もトーンが下がり気味であった。
 二日後の日曜日、高崎駅前のホテルで会うことになった。

×

非ログインユーザーとして返信する