ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

別れ水 幾星霜  エピローグ 完

 輝明は、渋々と頷くほかなかった。
「前と違って、今は電話で話せるからね。平気でしょう? あなたの声を聞きたいから、ちょくちょく電話をしてね」
「うん、分かったよ。毎日、毎晩電話する。寂しくなったら、ブラジルへ行くさ」
「まあ、それはやり過ぎよ。いい加減にして・・。うっふふ・・」
「そうか、電話代で破産しちゃうよな・・」
 亜紀はレストラン内を見渡してから、輝明の横に座りサッと唇を交わす。輝明は一瞬の出来事に、驚き喜んだ。
「凄い、亜紀さんって行動力があるんだね。あ~、嬉しいなぁ~」
「何言ってんの、私はブラジル人よ。人前でのキスなんて、恥ずかしくないもの」
《私も驚いたわ。でも、良かった。心配していたことを、最後に伝えられたから・・》
 マルコスが素知らぬ顔で戻ってきた。レストランを出て、出国ロビーへ行く。輝明は亜紀の手を握って離さない。もう一方の手を息子の肩に置く。歩きながら、マルコスが意外なことを言い出した。
「パパィ!」
「どうした? マルコス」
「うん、貴志兄さんが留学を勧めてくれたけど、来てもいいかな?」
「そりゃあ、いいことだ。それは、千香ちゃんが考えていたことだよ。北島さんに相談していたから・・」
「チアが?」
 その話に、一番喜んだのは亜紀だった。
「私も、応援する。帰ったら、北島さんに話してみるわ。そうなれば、会いに来れるものね」
「えっ、ボクに会いに来る?」
「いいえ、マルコスによ。ねぇ~、マルコス」
「うっそ~、肝心なのはボクでしょう」
「会うのは、マルコス。あなたは序でよ。ふふふ・・」
 三人は歩きながら笑ってしまった。エミール航空の搭乗呼び出しがアナウンスされる。瞬間、三人に緊張が走り、笑いから硬い表情に変わる。亜紀が先に彼の手を固く握りしめた。輝明は握り返す。
 ふたりは言葉を忘れた。ただ、ふたりの瞳が絡み合うだけだった。ゲート前で、亜紀とマルコスをもう一度抱きしめる。輝明の方から、軽く唇を合わせた。亜紀は惜しむように手を離すが、熱い視線はゲートの陰まで離さなかった。
 輝明は手の温もりを愛しみ、コートのポケットに仕舞い込む。
《千香ちゃん! 亜紀さんはブラジルに帰ったよ。でもね、横浜の見送りと違う。だって、悲しく心残りな別れではなかった。亜紀さんの愛をポケットに仕舞ってあるから》
 輝明は、二階の送迎デッキへ行く。滑走路から飛び立つ旅客機が、暗闇の中に消えるまで見詰めた。亜紀との忘れ水が幾星霜も流れ続けるであろうと、彼は確信したのである。

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