ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  エピローグ Ⅰ

 伊香保から戻った日の夜に、兄家族や会社の従業員を交えた親睦会に呼ばれる。その場は、輝明と亜紀の話題で終始過ごした。輝明は憮然としたり、顔を赤らめたりと忙しかった。亜紀は彼の様子に笑いが止まらない。マルコスも久しぶりに笑顔を取り戻す。
 輝明が会社に行っている間、亜紀はマルコスを伴い高崎市内を散策した。記憶を呼び覚ます場所に出会うと、立ち止まって黙想に耽る。マルコスの優しい気持ちは、彼女の心意を推し量り共に立ち尽くす。
 千香の初七日の法事を済ませた翌日、亜紀とマルコスはブラジルに帰る。成田国際空港の出国ロビーは、忙しなく動き回る人々の姿で混雑していた。外は夕暮れの厳しい寒さであったが、中は人いきれでむっとする暑苦しさを感じる。エミール航空のカウンターで出国手続きを済ませ、階上のレストランで夕食をした。
「ブラジルに帰ったら、この寒さも忘れてしまうわね」
「じゃあ、帰らないで日本に住んだら・・」
 輝明が、思わず本音を口走った。
「えっ? そんな・・」
「あっ、ごめん・・。千香ちゃんがいなくなり、亜紀さんが帰ってしまったら、孤独で辛く寂しい・・」
「・・・」
 亜紀はテーブルの一点を見詰め、ただ黙ったままだ。輝明は天を仰ぎ、大きく息を吐く。それ以上は口に出せなくなった。ふたりの雰囲気を感じたマルコスが、散歩してくると言って席を外す。
「やあ、マルコスに気まずい思いをさせたなぁ」
 亜紀が、面を上げ真剣な眼差しで、輝明の瞳を直視した。
「輝君! あなたの気持ちを苦しいほど理解しているわ。私だって、いつまでも輝君の傍にいて抱かれたいもの。でもね、日本へ来る前に園の礼拝堂で考えたわ。大聖堂のあなたの言葉と指輪を信じ。私を救ってくれた憩いの園の大切な仕事など。礼拝堂で感じたことを、私は実行すると決めたの。それは、洗礼を受け・・」
「えっ、まさか尼僧になるの?」
「違うわよ。洗礼を受けて神様と誓うこと。輝君との愛が永遠に続き、決してあなたを失望し裏切らないために・・。だから、私を信じてね」
「・・・」
《そうだ、確かにオレは約束した。あれでいいと・・。オレは、愛する彼女の幸せを考えればいいんだ》
「輝君、わがままを言ってごめんなさい。これまでに幾つもの偶然が、奇跡を起こしてきたでしょう。いちばんの喜びは、あなたの妻になれた偶然の奇跡よ。この幸せを大切に育み生きたいの」
「・・・」
「もしもよ、一緒に暮らすことで、あなたとの愛が壊れてしまったら、私独りで生きて行く自信がないもの」
「・・・」
「私だけでなく、輝君の幸せのためにも帰る。だから、許してね。愛しているわ」

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。