ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第七章 Ⅰ

 翌日の朝、昨晩から病室で見守っていた輝明は、奈美と交代して家に帰り仮眠をする。昼過ぎに起き、近くの食堂で昼食を済ませると再び病院に行く。千香の容態を見届けてから、車で成田へ向かった。
 午後五時に成田空港へ着いた。輝明は幾度も到着ボードを凝視する。逸る心を抑えているが、到着間近になると心は勝手に躍動した。時折、千香の顔が脳裏を掠める。その度に、彼の心はやるせなく苦しむ。
 出口ゲートの前は凄い人だかり、亜紀は人の群れを見渡す。
《到頭、日本に帰って来たわ。夢みたいね。輝君、どこにいるの?》
「マルシア、待ってよ!」
「マルコス、早くして! 出口はこっちよ」
「亜紀さん!」
 亜紀は、輝明の声に目を移す。彼の笑顔を見つけた。全身が喜びに満ちる。輝明が両手を広げ迎え入れる仕草に、彼女は腕の中へ飛び込んだ。
「いらっしゃい。いや、お帰りかな?」
「両方よ。あ~、輝君の温もり、素敵だわ」
「マルコス、元気だったかな?」
 後ろで戸惑っているマルコスを呼び、右手で亜紀を抱き左手に彼をハグした。
「パパィ、来たよ。会いに来たよ」
「うん、うん、良く来たね・・」
《本来なら、千香ちゃんが喜んで迎えるのに・・》
 輝明は声を詰まらせる。亜紀は彼の心意を察し、輝明の胸に顔を埋めた。
「亜紀さん、ごめん。この出迎えに千香ちゃんが・・。残念だ」
「それで、千香の容態は?」
「うん、危ない状況なんだ」
 空港の駐車場に向かうが、外の寒さにふたりは身を縮める。防寒着を用意していたので、直ぐに着させた。
「マルコス、大丈夫か?」
「佐和さんから、日本は寒いよって聞かされたけど、本当に寒いね」
 輝明は、缶コーヒーと菓子パンを亜紀とマルコスに手渡した。
「途中で食事をするから、とりあえずこれを食べてね」
「ええ、分かったわ」
 東関道から首都高速に入ると込み始めた。初めて見る日本の風景に、マルコスは心が奪われ車窓から目が離せない様子。
《輝君の顔が、すっかり痩せて弱々しく見える。千香のことが心配なのね。》
 ハンドルを握る彼の腕にそっと触れる。
《私にできることは・・。あ~ぁ、可哀そうな輝君》
 そっと触れる腕に力を込めた。輝明は、横目でチラッと亜紀を見る。
《オレの心が崩れそう。でも、亜紀さんの温もりが、必ずオレの心を助けてくれる》

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