ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第五章 Ⅷ

「ある知人は、死の直前に自分の人生を達観して、癌専門病院ホスピス棟を最期の住まいに選びました」
「・・・」
「その庭に咲く桜を、来年は見られないとカンパスに描き。生きている間は縁の薄かった観音菩薩像を、痩せ衰える手で懸命に彫っていました。葬儀には未完成の像が飾られていたが、カンパスに描かれた桜は見事に咲いていましたね」
 輝明は、その知人を思い出すたびに、最期の自分を思い描いていた。ただ、亜紀と再び会えたことで、描く内容が変わりつつある。
「そうですか。すべての患者様は、個々の病状や生活環境が異なり、年齢も物の価値観も様々ですものね。現在では、ホスピス棟を管理する病院は減少して、緩和ケア・チームで対応する病院が増えています」
「そのようですね。知人のホスピス棟も現在では無くなっていました」
「私どもの病院も、昨年にケア・チームを組織。医師や看護師だけでなく薬剤師、栄養士、理学療法士やソーシャル・ワーカーなどが一体となり、患者様とご家族の不安を緩和する支援を始めました」
「佐々木さん、ご指導ありがとうございました。近い内に、転院したいと思いますので、その節は宜しくお願いします」
「いいえ、こちらこそ・・。一度、外来に掛かってから手続きしてください」
「はい、分かりました」
 輝明は病院から家に帰ると、検査入院中の千香に電話した。
「はい、千香よ。それで、どうしたの輝坊ちゃん!」
「あ~、千香ちゃん。高崎のF病院に入院できるよ。明日、神戸に戻るからね。主治医に紹介状をお願いすることになる。できれば、来週にでも高崎へ移ろうか?」
「そう? 良かったわ。子供たちに連絡するわ」
 電話を切ると、介護用品専門店に連絡して、レンタル契約を頼んだ。兄の印刷会社に顔を出し、病院の結果を報告する。そして、緩和ケアによる入退院生活についても話しておく。兄は心配したが、了承した。
「輝坊、残り少ない時間だと思う。悔いが残らないよう、世話をするんだな」
「うん・・」
「何かあれば、必ず話せよ。お前の癖は、ひとりで胸に仕舞うからな」
「今回は話すさ。オレだけでは無理なことが、一杯あるからね・・」
「ところで、ブラジルの彼女は? お前の嫁さんに早く会わせろよ」
「わ、分かったよ。千香ちゃんのこともあるから、早く来てもらうつもりだ」
「よし、楽しみに待っているからな」
 翌日の朝、高崎を出て新幹線で神戸に向かった。一度、千香の家に寄って、荷物を置いてから千香の病院へ行く。既に、三時を過ぎていた。
 病室に行くが、千香は静かな寝息を立て眠っている。ベッド横の椅子に腰かけ、彼女の寝顔を見詰めた。

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