ウイルソン金井

創作小説。ロマンス、怪奇、ユーモアなど。多岐チャレンジ中。

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第五章 Ⅵ

 ブラジルから戻りひと月が過ぎた日。痛みもなく穏やかに会話ができる千香が、深刻な面持ちで輝明に相談した。
「輝坊ちゃん、私ね・・、できれば高崎に戻りたいの。だって、死ぬのなら・・、思い出のある高崎を選びたい。どうかしら?」
 千香から聞いた死の言葉は、今までに何千回も聞いた。それは、彼女の遊び言葉として理解し、輝明はいつも茶化し素通りさせている。千香も承知で、彼に対しては平常心で使う。しかし、今回の言葉は違った。
《これは、千香ちゃんの心意だろう。彼女なりに考えた末の結果なんだろうなぁ》
「うん、千香ちゃんが望むのであれば、オレは構わないよ」
「そう、分かったわ。子供たちが来週のクリスマスに帰る予定だから、相談してみるね」
 深刻な顔が、いつもの千香の笑顔に戻った。むしろ輝明の心の方が、暗い底へと沈んで行く。
 千香の話を聞いた輝明は、東京の子供たちに内容を先に知らせた。彼は早めに病院の主治医からムンテラを受け、その結果次第で、高崎へ転院することにした。
 クリスマス・イブ当日、千香は子供たちと話し合う。彼らは輝明に意見を聞く。
「本人の望むことが優先だと思う。高崎なら東京から近いし、直ぐに会える。地元だからオレも動きやすいしね」
 長男の貴志は納得し、妹の奈美も了解した。
「年が明けたら、受け入れ可能な病院を調べに高崎へ行ってくるよ」
 輝明は帰国後、憩いの園の電話を使って連絡を取り合ったが、ゆっくり話すことができない不便さを感じた。彼女に携帯電話を持つよう勧める。昨日に憩いの園へ電話すると、亜紀から携帯を購入したことを告げられた。
 輝明は嬉しくて、時間を見ては続けて電話する。亜紀は呆れて彼をたしなめたが、喜んでいる様子だった。そして、憩いの園の電話では言えない言葉を、最後に必ず告げることができた。「愛してる」
 年が明けて千香が検査入院している間、輝明は高崎に戻る。
「兄貴、迷惑掛けて悪いが、もうしばらく休ませて欲しいんだけど」
 千香の病状を伝え、今後の予定を説明する。
「仕事のことは心配するな。千香ちゃんをしっかり支えてやれ、それが大事だ。お前もずいぶん世話になったし、俺の可愛い妹だと思っている。分かったな」
「うん、ありがとう・・」
 ポケットから取り出したタバコを、輝明に一本勧めた。
「いや、吸わない」
「えっ、どうして? 止めたのか?」
「ん~、まぁ、そうだね。一緒に住むなら禁煙しなさいって、千香ちゃんに約束させられた」
 佐兄は、笑いながら目の前で吸う。
《我慢、我慢だ。でも、もう慣れたな・・》
「それで、心当たりの病院を知っているのか?」

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