ウイルソン金井

創作小説。短編が主体ですが、長編小説も書きます。

創作小説を紹介
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第五章 Ⅲ

 突然に空が暗くなり、スコールに見舞われる。道路があっという間に冠水状態。セルジオが注意しながら、ゆっくりと車を走らせる。
「凄い雨ね。後ろのマルコス、大丈夫かしら・・」
「驚かれたでしょう、直ぐに止みますよ。ああ、彼はしっかり走っていますね」
「いいえ、驚かないわ。確か、熱帯特有のスコールでしょう? 主人と一緒にタイで経験したことがあるから」
「千香、ブラジルの人は雨期の長雨以外は、傘を持たないの。街角の飲食店でカフェを飲みながら、のんびりと待つのよ」
「日本人はせっかちだよな。土砂降りの雨でも懸命に走る。北島さんは・・」
「私なんか、直ぐにコンビニでビニール傘を買ってしまう。妻からは家中が傘だらけと、嫌味を言われていますよ。アッハハハ・・」
 スコールのお陰で重苦しい雰囲気は解消され、話題に集中することができた。
「そうだわ。亜紀、修学旅行で行ったときの、あの、お寺を覚えている?」
「覚えているわ。三千院よ。帰り道に、篠突く雨に降られ大変だったもの」
「旅館に着いたら、びっしょりよ。下着も丸見えで大恥かいたわ。女子高で良かった」
「ええ、いい思いでね。あの頃が、懐かしいわ」
「オレも、同じことがあったなぁ」
「あら、嫌だ。輝坊ちゃんの想像なんて、とても考えたくない。ねぇ、亜紀!」
 千香に嫌味を言われ、ふて腐れる輝明。その表情に、千香と亜紀が又しても笑う。
 雨が止み、パッと陽が差して明るくなった。空港のターミナルが近づくにつれて、車内が再び重苦しい空気になる。
 空港の玄関口に車を停め、マルコスが荷物をカートに載せ替える。輝明は、亜紀に千香を頼み、北島と航空会社のカウンターへ急ぐ。
 刻々と別れの時間が迫る。迎えの時間はゆっくり進むが、送りの時間は瞬時に過ぎて行く。出国ロビーの人々は、経過する時間を確認しては、ため息交じりに肩を落とす。心を痛める話題を避け、互いに黙視する人々の光景が目に留まる。
 マルコスは亜紀の側から離れない。千香の肩に手を置き、時折小声で話し掛け和ませるる。
「あ~、間に合って良かった」
 佐和がテレーザと一緒に駆けつけた。
「わざわざ、お見送りありがとうございます」
「本当にありがとう。突然に訪問してご迷惑でしたね。これからも、亜紀のことを宜しくお願いします」
「とんでもないです。園長から、多大なご芳志の礼を言付かって来ました。神様のご加護を・・」
「そうですか、園長には宜しくお伝えください」

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