ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第五章 Ⅰ

 翌日の朝、輝明が目を覚ますと、亜紀が新しいワンピース姿で千香の世話をしていた。
《やはり、似合うな。綺麗だ》
「おはよう、輝君。さあ、朝食に行くわよ」
 少し恥じらう様子で、爽やかに挨拶する亜紀。輝明は、一瞬戸惑うが返事を返した。
「やあ、おはよう」
「亜紀、いいのよ。お寝坊さんはそのままで、先に行きましょう」
「分かったよう。直ぐに行くから・・」
 輝明は大急ぎで洗面し着替えると、レストランに向かった。テーブルにはマルコスが、一緒に食べている。
「おっ、マルコスは早いな。おはよう!」
「ボン・ヂーア、お父さん!」
「え、な、何?」
 輝明は目を丸くして、マルコスの顔を覗き見る。千香と亜紀がクスクスと笑う。
「そうよ。亜紀が奥さんなら、マルコスは輝坊ちゃんの息子でしょう」
「そうか、そうだったな。お~、我が息子よ」
 輝明が大げさに声を上げ、マルコスを後ろからハグする。マルコスは首に巻かれた輝明の腕を、嬉しそうに笑いながら叩いた。
「さあ、座って早く食べなさい。あ・な・た!」
 亜紀の言葉に、輝明は緊張する。だが、笑いが収まらない千香とマルコス。
《私が夢にまで見た小さな幸せ。でも、数時間後には消えて、手元には残らない》
「どうしたの、亜紀? 真剣な眼差しで・・」
「ううん、なんでもないわ。千香、しっかり食べられたの?」
「笑いながら食べたから、何を食べたか忘れた。ふふ・・」
「そう、私も忘れたわ」
《亜紀、あなたの心の中が透けて見えるわ。私だって別れるのが辛い。亜紀! もっと貪りなさい。あなたに必要な幸せよ》
「亜紀! 輝坊ちゃん!」
 千香の声に、ふたりは同時に彼女に目線を合わす。
「どうしたの? 千香」
「えっ、何? 千香ちゃん」
「本当に、これでいいのね。あなたたちは・・」
「あ~、千香~、心配してくれてありがとう。私は十分よ。この数日で、沢山の事を取り戻し、ううん、受け取れたわ」
 輝明は、千香の心意に胸が締め付けられ、亜紀の本音も決して安易な言葉ではないと、強く心根に受け止める。ただ、確実な答えを導けない自分に、苛立ちを感じていた。
「大好きなチア、ぼくがふたりを幸せにするよ!」
 テーブルに同席していたマルコスが、三人の絡まる心の動きを察し、彼の純真な気持ちを言葉にした。

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