ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第四章 ⅩⅡ

「亜紀、紅茶はどうしたの? 冷めちゃうわよ」
 ふたりは我に返り、サッと離れる。
「い、今・・、できたから、ちょっと待ってね」
 輝明が、先に千香と自分のカップを運ぶ。亜紀は二回ほど深呼吸をしてから、知らぬ素振りで千香の横に座る。
「あら、亜紀の顔に涙の跡があるわ。輝坊ちゃん! 女性を泣かせたら、丁寧に拭いてあげるの。それが男性の役目なのよ」
《やはり、千香ちゃんにはオレの行動が見破られる。どうすることも、I can not だ》
「はい、仰せのとおりです。千香様、丁寧なご指導に感謝申し上げます」
「まだ、頭が高い」
 輝明がソファから下りて、土下座をする。
「分かれば、それで宜しい! おほほほ・・」
 三人はそれぞれの顔を見合わせて、大笑い。その後、紅茶の味をゆっくりと確かめながら飲んだ。
「あっ、そうだわ。マルコスを呼んで、家から着替えを持って来なければ・・」
「輝坊ちゃん、亜紀の服を買ってあげなさい。わざわざ家に帰る必要はないでしょう」
「そうだね、今から行こうか?」
「え~、いいわよ。なんなら自分で買うから・・」
「亜紀! 輝坊ちゃんが三十年分のプレゼントを買いたいと願っているの。断ったら、もう絶交よ。分かった?」
「ふふふ・・、分かったわ。近くのショッピング・センターへ行きましょうか?」
 今は体調が良いから、一緒に行きたいと千香がごねる。
《せっかくブラジルに来たんだ、少し観光気分を味わせてあげよう・・》
「じゃあ、一緒に行こう。無理しないでね・・」
「やった~、亜紀、輝坊ちゃん大好きよ」
 亜紀が、マルコスに連絡する。彼は近くの事務所にいたので、直ぐにやって来た。そして、四人でエルドラード・ショッピング・センターへ行く。そこは、六階建ての映画館や遊園地、地下にはレジが五十台以上並ぶハイパー・マーケットになっている。
「凄いショッピング・センターなのね。驚いたわ」
「本当だ、ここなら何でも揃うだろうね」
 目的の婦人服専門店を探す。千香はお気に入りのマルコスに支えられ、ゆっくりセンター内を歩く。マルコスは、休憩用のベンチがあると、千香の体を気遣い休ませた。千香は片時も彼の腕を離さず、嬉しそうに話し掛ける。
《久々だな、千香ちゃんのあんな笑顔を見るなんて・・。マルコスに感謝しなければ》
 千香が、ショー・ウインドー内のワンピースに目をやり、亜紀に知らせる。
「これどうかしら? あなたに良く似合いそう。輝坊ちゃんも見てごらんなさい」
「そうだね、亜紀さんらしいイメージだ」
《うん、でも・・、私には若すぎないかしら・・》
 亜紀は恥じらうように、その服を眺める。

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