ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅦⅩⅨ 

「千恵ちゃん、俺は正直に話すから、良く考えてね」  彼女の体が不安で固まる。 「そんなに、緊張する必要はないよ」  肩を軽く摩る。 「うん、分かった・・」 「人を好きになること、決して悪いことじゃない。俺はたくさんの人を好きになった。残念だけど、嫌う人もいたし、嫌われもした」  何を説明しようと、しているんだ。千恵も、首を傾げ理解に苦労している様子だ。 「あっ、ごめんな。何を話すか、忘れちゃった…

   偽りの恋 ⅦⅩⅧ 

 翌々日の夕食後、千恵から連絡が来た。 「金ちゃん、元気!」  すごく元気な声が、携帯から響く。 「ああ、元気だよ。もう少し、声を低く・・」  幸いに、談話室には誰もいなかった。ただ、誰かに聞こえたら、大変だ。 「分かった・・。それからね、もう仕事しているからね」 「そうか、良かった。それで、今日は?」 「・・・」  ほんの間、会話が途切れた。何かを話したいようだ。 「どうしたの? 言いたいこと…

   偽りの恋 ⅦⅩⅦ 

 佐藤が意味ありげに微笑んだ。 「何が面白い? 俺にとって、深刻なことだよ」 「あ、ごめん。面白いとは、思っていないわ。ただ、・・」 「ただ、って・・、なんだよ?」  不愉快になり、つっけんどんな言い方をした。 「ただ、千恵ちゃんを軽々しく考えていないと、分かったから。安心して、つい微笑んでしまったの。それが、何故いけないのよ? 可笑しな、金ちゃん」  何故不愉快なのか、俺にも分からない。 「ま…

   偽りの恋 ⅦⅩⅥ 

 俺の考え方は一方的なのかもしれない。この先、どんな障壁が待ち構えているか、想像もつかない。でもな、一番の問題は恋愛だろう。 「ねえ、金ちゃん。あの子の行動を、どう思ったの?」 「うん、積極的だった。本音で言えば、体で誘うことが恋愛と思っているように感じた」  これが現代風の恋愛なのであろう。いじらしい恋。淡い恋。密やかな恋。俺の考えが古風なのかもしれない。 「千恵ちゃんは、本当の恋心を知らない…

   偽りの恋 ⅦⅩⅤ 

 彼女なら理解すると思い、洗いざらい話すことにした。 「佐藤さん・・、今回のこと全て話すよ。ハッキリ言って、悩んでいるんだ」 「ええ、千恵ちゃんからも告白されたわ。あなたに抱かれ、キッスもしたそうね」  やはりな、あの子らしい。 「そのことで、どう思った?」 「う~ん、いろいろ考え、妬みも感じたわ」  佐藤の表情に、話すことを躊躇い決心が揺らぐ。 「そうだろうな~。ん~、困った」 「困ること無い…

   偽りの恋 ⅦⅩⅣ 

 それからの数日は、何故か苛立ち落ち着かない。千恵から音沙汰が無く、俺の脳は完全に支配された。残暑と千恵の思いが、俺を焼き焦がす。  ほぼ一週間後、佐藤から呼び出される。 「今晩は、まだ暑いわね。元気だった?」 「うん、まあね。ところで、今日はなんの話かな?」  昼間より幾分暑さが和らぐも、未だに蒸し暑く気分が優れない。団扇でバタバタとあおぎ続ける。 「千恵ちゃんから、事細かく聞いたわ。時折、べ…

   偽りの恋 ⅦⅩⅢ 

 弥彦の内容が分かっていれば、同じ新幹線に乗って行けたのに。どこかで、歯車が狂った。工場へ連れて行かない方法を、考えるべきだった。 「金ちゃん、いつまで寝ているんだ」  同室の佐川に起こされる。昨晩は心身共に疲れ、いつの間にか熟睡したようだ。夢の中に千恵が映し出される。だが、肝心なところで途切れた。 「早く行かないと、朝食が無くなるよ」 「あっ、そうか。あ~、腹が減った」  俺は洗面し、急いで食…

   偽りの恋 ⅦⅩⅡ 

 俺は理解に苦しむ。 「金ちゃんらしい、言い回しね。うふふ・・」 「家に帰ったら、突然に電話だよ。意味が分からず、駅まで迎えに入ったけど・・」  佐藤の説明によると、数日前に千恵から相談を受ける。祖母からお盆に帰るよう勧められ、帰りたくないと悩んでいた。 「千恵ちゃん・・。お祖母ちゃんのことは、とても心配してた。でも、帰る勇気がなかったの。故郷に、嫌な経験があってね」 「え、嫌な経験?」 「そう…

   偽りの恋 ⅦⅩⅠ 

 彼女は、鷹揚に構え、唇を差し出す。 「ムードの無いキッスなんて、なんか変だよ」 「これで、いいの。外国なら、日常茶飯事でしょう」 「あ~、それは挨拶のキッスだ。ハグと同じさ・・。ムム・・」  千恵の唇が、強引に俺の口を塞いだ。俺の脳が、簡単に受け入れる。既に挨拶のキッスではなく、恋のキッスに変わりつつある。 「ん?」  駅前のロータリに、一台のタクシーが入って来た。 「ま、待って・・。タクシー…

   偽りの恋 ⅦⅩ 

 俺は答えることができない。口をパクパクと動かし、肺に酸素を送り込む。過呼吸に陥りそうだ。俺は天を仰ぐ。 「金ちゃん、大丈夫なの?」  千恵が俺の顔を覗き、小さな手で頬を擦る。なんて、優しく滑らかな手の感触、俺の脳が宙を回る。 「これが・・、天国へ誘う・・、天使の手・・、なのか?」  我知らず、余計なことを呟いた。 「うふふ・・、天国? ふふ・・、私の手が? もう、胸がキュ~ンとなっちゃう」  …