「私と一緒に暮らすそうよ。これで、私も残りの生活を楽しく生きて行けるわ。ねえ、ブリ―リア! 共同生活する仲間を探しましょう」 ワシは、安心したら無性に食べたくなった。 「さあ、黒ピカ! たらふく食べるか?」 「はい、食べましょう、食べましょう」 二匹の大食い競争が始まった。 「おほほ・・、うふふ・・。面白いこと。ねえ、ブリ―リア、そう思わない?」 「ふふ・・。ええ、でも・・、彼と別れるのが辛…
マリアブリータの顔が、直ぐ目の前に見えた。ワシが横になっている。この状況はどうしたんだ。 「オ、オヤ・・ジ。・・。リーダー、オイラが分かりますか?」 「お、お前の顔だけは、絶対に忘れない」 「セニョール、しっかりしてください!」 「セニョーラ・マリアブリータ、少し休めば元気に・・。気が張っていたと思う。もう、平気だ」 大会は既に終わっていた。倉庫の外は朝を迎え、人間どもが忙しく動き回っている…
「ワシの話を聞いてくれ! ワシらの仲間には、危険を素早く感知する能力と、いかなる環境にも耐える体質が備わっている。それが三億年という長い時代を、生き延びてきた証明だ。これこそ、神から与えられた本能だ」 「だから、なんだって言うのだ。それは過去の話ではないか」 「そうよ、そうよ。過去の話だわ。現実を考えてみなさいよ」 「大昔には、殺虫剤スプレーなんて無なかった。憎き人間どもは、俺たちを殺すためなら…
「どう思われますか? 過去の大会では、ここまで活発な意見はなかった。あなたの演説が、仲間の啓発を強く高めたようです」 「少し待ってくれ、講演の内容を冷静に考えていたんだが・・。どうも、仲間に夢を与えたのではなく、残念ながら幻想を与えたようだ。ワシら仲間にできるものは、何も無い。それが現実だ」 マリアブリータは、ワシの言葉を信じられない様子だった。 「そ、そんな! 私たちには、夢も希望も持てない…
彼女の言葉は、説得力のある言葉であった。黒ピカやゴキジョージは、黙って聞くしかない。 「でも、愛することは、好きを越えた次元の異なる普遍的な感情なの。男女の愛、家族の愛、子弟の愛など。私とセニョール・ゴキータの愛は、仲間の愛なのよ」 「ちょっと待って、なんなの、その普遍的な感情って? 格好いい言葉だけど、オイラにはぜんぜん意味が分かんないよ」 《なんと見事な真髄を極めている。それも的確な言葉。…
休憩時間が過ぎ、分科会が始まる。各グループがまとめる内容を、ワシは楽しみに待った。その様子を眺めていると、ミスター・ブリジョンソンとセニョール・ゴキペドロが通訳を伴って、ワシの所へやって来た。 「世界本部から、リーダー・ゴキータに特別顧問をお願いする。なにとぞ、就任を受けて頂きたい」 「え~、ワシが、ですか? ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。ワシが特別顧問にですか?」 「イェス、是非とも承…
「さて、どこまで話をしたか、忘れてしまった。直ぐに思い出すから・・」 「がんばれ~、だいじょうぶか~?」 「おれが代わりに話そうか? アッハハ・・」 「うふふ・・、私でもいいわよ」 「あっ、そうだ。神や仏の話だったな。信じる者は救われるか・・。まあ、いいや」 少し間をおき、ゆっくりと会場を見渡してから話し始めた。 「もし、人間どもが地球から逃げるのであれば、ワシらも考える必要がある。三億年の命…
「いつの日か、人間どもによって、生き物の住めない地球にされてしまう。人間どもは宇宙開発と偽り、ヤツらだけが助かる、別の星を探しているらしい。このワシらの大切な地球を、助けるつもりはない! 捨てて逃げるつもりだ! 本当に卑怯なヤツラだ! 人間どもには頼る神や仏がいるが、ワシらには頼る神はいない!」 ワシは我を忘れ、興奮して怒鳴ってしまった。会場も大騒ぎだ。 「ジャパニーズ、あんたが我らの神だ!」…
会場全体がシーンと静まり、ワシの言葉を待った。 「世界中から参加した皆さん! ワシらは三億年前の古生代石灰紀の地球上に誕生し、氷河期や隕石落下など多くの危機や試練を乗り越え、種族の命を受け継いできました。 森林環境に依存し平和に暮らして来たが、人間どもの出現によって、ワシらの生活環境が一変した」 通訳のために一息入れる。会場は、通訳の言葉に耳を傾けた。 「特に、この一世紀の間、人間どもの文…
「え? チーズが嫌いなの? 面白い、うふふ・・。でも、セニョールもブラジル語が話せますね? どちらで・・」 「ワシは、単語を並べるだけです。棲み処がセントロ・コムニターリオ・クルツラール(中央公民館)という場所で、ポルトガル語の授業を聞いてました」 「それは、素敵ですね」 ワシは輪の中心にいる黒ピカを見詰める。 「いや、ワシの連れの黒ピカは、この旅で、色々な言葉を覚えてしまった。それも、アマゾ…