ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 Ⅴ

 彼女は目を瞑り思案しているようだ。恐らく、俺の心を解釈しているのだろう。目を開けると、二度ばかり首を振る。 「これからは、洸輝さんと呼ぶわ。いいでしょう?」 「・・・」 「そして、私のことを、真美と呼んでね」  俺は唖然とした。 《俺は彼女の言いなりか? 俺の立場は、どうなるんだ? これが与えられた運命?》 「ええ、そうよ。そうすれば、洸輝さんの未来が見えて来るわ」 「俺と真美さんが結婚するの…

   謂れ無き存在 Ⅳ

 メモを見て、何かを考えていた。 「何を考えているんですか?」 「う~ん、そうね~。一緒に行っても良いかしら?」  俺は興味もなく、行くなんて考えてもいなかった。 「別に・・、だって、俺は行くつもりなんてないから・・」 「いいえ、あなたは必ず行くわ」 「えっ、なんで、行く必要があるの? 俺は行かない」  彼女は、あの瞳でじっと俺を見詰める。そして、微笑む。 《あっ、狡い! 弱みに付け込み、俺を誘…

   謂れ無き存在 Ⅲ 

「俺は、あなたを知りません。初めてですが・・」 「ええ、私もよ。だって、あのセミナーに参加したのは、今日が初めてですもの」 「いや、俺も初めて参加した」  俺は、彼女の瞳を初めて見ることができた。 《なんだ! この瞳は・・。俺の魂が吸い込まれる。あ~、綺麗だなぁ~》  彼女の瞳を見詰めたまま、俺の記憶は夢遊病者の様に歩き回る。 「そんなに見詰めないで、恥ずかしいわ」  謎めく天使の声に、俺は目覚…

   謂れ無き存在 Ⅱ 

「俺の運命が真っ白! そうですか・・」 「いや、がっかりしなくても、いいと思うよ」  講師は、俺の目を見詰めた。ふっとため息を吐き、俺の肩をポンポンと叩く。そして、一枚のメモを俺に渡した。 【君に話すことがある。いつでも良いから、私の家に来なさい。住所は裏に書いてある。できれば、来る前に電話を掛けて欲しい】 「それでは皆さん! 次回にお会いしましょう」  机上の書類を片付け、カバンの中に仕舞う。…

   謂れ無き存在 Ⅰ 

 今、人は夢の中にいる。本当の現実社会を知らない。それで良いのかと悩む。いや、悩む必要はないのかも・・。夢こそ現実だからだ。人は夢を見ながら生きている。最後の時に、現実を知る。歩んだ人生を後悔するか納得させるか、自らに判断を委ねるためであろう。  人の生き方は、産まれた環境でほぼ決まる。だが、運命が多くの道を選択させ、環境を徐々に変えて行く。多くの選択こそ、夢である。どの道を、どのように選ぶか。…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅳ 

 翌週の日曜日、ミサの後に洗礼を受けた。洗礼名はマルシア。マルガリータ園長、佐和やマルコスなどが参列して、洗礼の儀式を見守る。神父が、亜紀の頭上に聖水を注ぐ。 《そう、この水が永遠の忘れ水ね》  亜紀の左手の薬指と首かざりの指輪が、一瞬の温もりを感じさせる。それは、輝明が彼女の洗礼を祝福したと亜紀は思えた。 《私は独りぼっちじゃぁ、ないわ》  洗礼後、参列者から祝福のハグを受ける。  礼拝堂を出…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅳ 

 三ヶ月後の五月、亜紀は独りで水沢山を訪れた。整備された小道を登る。頂上に立ち、一望の景色を眺めた。季節は異なるが、眺める風景は変わっていなかった。彼女の長い髪の一本一本を、爽やかな風が愛でるように触れて行く。  その風の感触は、輝明が優しく撫でる感覚に似ている。 「あ~、輝君・・」  亜紀は、彼の名前を呼んだ。 『ん? どうしたの?』 「だって、輝君が触ると、恋しくなるもの・・」 『亜紀さんの…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅲ 

 輝明の兄は、言葉を続けることができない。亜紀は嫌な予感に手が震え、支える何かを求める。心の奥から声を絞り出し、兄が伝えたい言葉を尋ねた。 「お兄さん、輝君・・に、何が・・、起きたのですか?」 「実は・・、弟が、亡くなり・・・ました」  兄の言葉に、亜紀は信じられなかった。 《うそ、うそでしょう。いや、間違いました。と言ってください!》  亜紀は立っていられない。ドスンとベッドに座り込んだ。携帯…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)Ⅱ

 太田インターから桐生に差し掛かる。高崎まで三十キロ程の地点だった。突然、右前方の車がスリップし、中央分離帯に追突した。その後ろに走行していたトラックが、急ブレーキを掛け輝明の車線側にハンドルを切った。その車は、輝明の前を走るワンボックス車に激突。 「わぁ~、危ない!」  彼は大声を張り上げ、ブレーキを思いっきり踏む。だが、輝明の車もスリップして止まらない。仕方なく右にハンドルを回してしまった。…

続 忘れ水 幾星霜 (別れの枯渇)

 成田空港の明かりが遠ざかる。雲間を通り過ぎると、満天の星が輝いていた。その星が涙で歪む。 「マルシア、悲しくて、泣いているの?」 「ううん、悲しい涙ではないの。涙には、沢山の意味があるのよ」  マルコスが、ポケットからティシュを取り出し亜紀に渡した。 「ありがとう・・。これでいいのかと思うと、何故か虚しくなったの」  客室乗務員が、夕食を配り始めた。滞在中に経験したことを、マルコスは限りなく話…