ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   謂れ無き存在 ⅩⅤ 

《はい、はい、仕方ないか・・》 「はい、持って来たよ」  俺はできる限り目を逸らし、バス・タオルを渡す。浴室のガラス戸が開き、真美の腕が現れた。俺は咄嗟に目を瞑る。湯気に絡んで、爽やかなボディ・ソープの香りが漂った。 「ありがとう・・」 「いいや、べつに・・」  俺は居間へ引き返す際に、ガラス戸越しの白い影を見てしまった。それは、俺にとって衝撃的な影、居間に戻る足が覚束ない。ソファにドッサと倒れ…

   謂れ無き存在 ⅩⅣ 

「ううん、誰からも。ただ、何故か記憶に残ってるの」 「多分、お母さんが、子守唄で歌ってたかも知れないね」 「そうかもね・・」  真美が紅茶を運び、洒落たガラス張りのローテーブルに置く。そして、俺の横に座り、体をぴたりと寄せた。真美の熱い体温が俺の体に侵略を試みる。俺の軽い脳は、彼女の熱い息遣いに反応し独り喘ぐ。だが、心の奥は冷静な判断を強く求めていた。 《ただの煩悩で一線を越えることは、いとも簡…

   謂れ無き存在 ⅩⅢ 

「今、連絡してみたら、早い方がいいわよ」 「そうだね、電話してみるか」  携帯を取り出し、渡されたメモの番号に掛ける。 「もしもし・・」 「いつ電話してくるかと、待っていましたよ」  俺からの電話が、必ず掛かって来ると分かっていたようだ。 「あっ、はい・・」 「ところで、傍に居るのは真美さんでしょう?」 「えっ? ど、どうして・・」  講師が、俺たちのことを知っている。俺は驚いた。真美も俺の体に…

   謂れ無き存在 ⅩⅡ 

 真美は俺の顔を見詰めたまま、黙って聞いている。 《今までの俺は、負け犬なんだ。実際は強くない。空威張りしているだけさ・・》 「真美を撥ねつける勇気が無い。直ぐに受け入れたい。でも、でも・・。俺は君のことを、なんにも分かっちゃいない。歳だって知らないんだよ」  真美の瞳が輝くのを感じた。 「分かった。話すわ。私が十六歳になると。約束の養育を果たした友人夫妻は、念願の永住の地イスラエルへ移住しちゃ…

   謂れ無き存在 ⅩⅠ 

 俺は、間違いなく夢の中にいる。ナポリタンの味がする夢の中だ。こんな夢物語が、現実に在り得る訳がない。  たった数時間前に出会って、愛を語り。初めて抱く女性の体。官能的なくちづけ。 《夢なら覚めないで欲しい。真美が幻でなく、本当の真美であって欲しい》 「洸輝、ねえ、洸輝! どうしたの? ボーっとして」 《あっ、声がする》  真美が俺の鼻を二度ほど小突く。 「ん? なんだ? 俺は・・」 「頭が変に…

   謂れ無き存在 Ⅹ 

 ふたりは話のことを忘れ、気持ちを料理に向けていた。 《この家庭的な雰囲気は、俺にとって無縁な環境だったな。望むことさえ考えていなかった》  俺は鍋の茹るパスタを見詰め、幸せの味を考えていた。 《甘い、辛い、それとも苦いのだろうか。小さい頃は、味なんて考えてもいなかった。施設の仲間とたらふく食べることが、大きな幸せと感じていたよな》 「コ・ウ・キ、これからは、私と一緒に幸せの味を楽しみましょう。…

   謂れ無き存在 Ⅸ 

「分かった、一緒に行こう。でもさ・・。その前に、真美のことが知りたい」  俺は気心が知り得たと考え、肝心な事を切り出す。すると、彼女の表情が硬化した。 「話すのが苦痛なら、追々でいいよ」  真美を追い詰める気持ちはない。待つしかないと思った。 「いいえ、話すわ。もう、隠す必要がないもの。洸輝さんには、大事なことですものね」  新しく紅茶を入れてくれたので、飲みながら頷いた。彼女は、カップを持って…

   謂れ無き存在 Ⅷ 

 俺の唇に、微かに触れた真美の唇。触れる寸前に、彼女の芳しい息が俺の鼻をくすぐる。その柔らかな唇と爽やかな息が、真美の初々しい情味を伝え俺を震撼させた。  真美の真情が理解でき、俺は彼女の肩を引き寄せる。 「あ~、・・・」  真美が甘い吐息をつく。俺の感情の箍が緩み、煩悩で真美の唇を吸ってしまった。ふたりは、初めての経験に溺れる。暫し、我を忘れる思いであった。  互いに息が苦しくなり唇を離す。ふ…

   謂れ無き存在 Ⅶ 

 運転中の真美は、真剣な眼差しで前方を見詰めている。白い肌の耳元に、小さなほくろを見つけた。その横顔に俺は見惚れる。 《真美の奥に秘められた、本当の姿が分からない。実際のところ、歳だって曖昧だ。幼く麗かな表情を見せるかと思えば、年上の気品さが滲み出る》  車は彼女の言葉とは裏腹に、可なりの距離を走っている。高崎市街地を出て、榛名山に向かう。漸く途中の箕郷梅林を過ぎたころ、舗装されていない小道に車…

   謂れ無き存在 Ⅵ 

 俺はケーキを食べながら考えていた。 《確かに運命で結ばれたとしても、俺の出生や過去のことを知れば、真美は離れて行くだろう。過去を明らかにして、判断を委ねた方がいいかも。彼女を不幸にさせる訳にはいかない》  真美が徐にフォークを置き、カップの紅茶を静かに飲む。そして、俺の瞳を覗き込んだ。俺はそれに応え、真美の瞳を直視する。 「ねえ、洸輝さん。心配しないで、私はあなたを信じている。あなたの過去は知…