ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物が、世界大会に参加する。笑い、涙、ロマンス、親子の絆の物語。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。心意を確かめるために、行方不明の彼を探す。そして、ハワイ島へ。
 忘れ水 幾星霜  偶然の出会いが必然なのか、憧れは恋へ。恋は愛へ。山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。ひょんな出会いからの交流。そして・・。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズの第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 雨宿りに続く大河内晋介シリーズの第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 怪奇な夢を見続ける主人公。夢に現れる和服姿の美しい女性。それは不思議な縁から始まるものであった。
 ア・ブルー・ティアズ 入院中の父子が生死の別れ際に触れ合う姿。その様子見た主人公が、自らの父に対する情念を考える。また、夜間の救急病院で起きる生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅤ 

 彼女の願いは叶えたい。本能的に望んでいる。でも、恋を前提とするキスではない。 「うん、いいよ」  俺の心を騙している返事だった。 「・・・」  佐藤は体を寄せ、唇を近づけた。瞼をしっかり閉じている。 「・・・」  左手で彼女の肩を抱いた。唇を重ねる。俺の意識は、周りの景色も風も断ち切った。同伴喫茶のキスとは、まったく異なる。積極的な佐藤のキスは、俺の脳を刺激した。  初めて経験する官能的なキス…

   偽りの恋 ⅩⅣ

 いや、初めてではない。前にひとりだけ連れて来た女の子がいる。でも、それは特別な感情を抱くことは無かった。むしろ、俺の憧れである妹的存在かもしれない。 「ひとつ、聞いてもいいかしら?」 「うっ、何を?」 「もし、もしよ。ん~、あのね」  佐藤は、言葉を探している。 「いいから、何でも聞いていいよ」 「うん、私が金ちゃんを好きになったら、どう思う?」  俺は目まぐるしく、答えを考えた。今の俺には、…

   偽りの恋 ⅩⅢ

 階段を下り、一階の普通席を見た。奥の席に目が流れる。楽しい時間を過ごしたはずの場所。 「どうしたの、金ちゃん?」  佐藤の声に、あの時間が幻のように消え去った。 「いいや、なんでもない・・」  外へ出ると、日差しが眩しく照らす。 「これから、どこへ行くの?」 「うん、例の議事堂前公園に行くよ」  俺の好きな場所だ。彼女との思い出も無い場所。気楽に過ごせると思う。 「私、まだ頭がボーっとしている…

   偽りの恋 ⅩⅡ 

 佐藤のショート・カットの髪を触る。 「佐藤さんの髪って、サラサラしているね」 「あ~、何よ。この感覚・・」  佐藤は気持ち良さそうに、頭を反らす。俺は触り続けた。 「もう、ダメ・・」  上気した顔に潤んだ瞳の彼女が、俺の顔を見詰める。俺は知らぬ顔で、アイス・コーヒーを飲んだ。 「もう、金ちゃんって、意地悪なんだから・・」  その瞬間、佐藤が抱きついてきた。甘い香りが、俺の鼻をくすぐる。 「何が…

   偽りの恋 ⅩⅠ 

 レストランを出る。ぶらりと散策した。 「金ちゃん、あの洋風のお城は、何?」 「あ~、あれか。喫茶店だよ」  二年前に、入ったことがある。 「私、入ってみたい。行こうよ・・」  俺は迷った。 「行こうよ、ね?」  腕を掴まれ、仕方なく歩く。目の前に着いた。 「さあ、さあ、入ろう・・」  ほとんど、強引に引っ張られる。  中に入る。一階の奥に向かうつもりが、佐藤が二階の階段を上り始めた。 「佐藤さ…

   偽りの恋 Ⅹ 

 駅構内を歩き回った後、新宿駅西口に出る。あてもなく歩く。 「金ちゃん、どこかでお昼を食べようよ」 「そうだね。何が食べたい?」  前に、花園近くのピット・インにジャズを聴きに来たことがあった。その辺を歩き、適当な洋食レストランに入る。 「俺は、ビーフシチュウにするよ。佐藤さんは、何する?」 「私は、このピラフにするわ」  佐藤は、メニュ―の写真を見ながら、指で示す。待つ間、二人は共通する話題が…

   偽りの恋 Ⅸ  

「これじゃぁ、座れそうもないね」 「私は、大丈夫よ」  各駅停車は辛い。停まるたびに、乗客が増える。終点の新宿駅近になると、身動きができない。俺と佐藤は密着したままだ。彼女の顔が、赤く火照る。 「もう直ぐ着くけど、我慢できるかな?」 「ええ、平気。金ちゃんは?」 「ああ、問題無いけど、妄想の中にいる」 「えっ、妄想って、何よ?」 「いや、なんでもない・・」  佐藤が、俺の脇を小突く。周りに聞かれ…

   偽りの恋 Ⅷ 

 俺は返事を保留にする。彼は納得せず、気分を損ねたようだ。 「約束、でけへんのかい。金ちゃんは、へたれやな~」 「えっ? 屁をたれた? 俺が、そんなことするかい!」  坂本は、目を丸くして驚く。 「よう言うわ。ちゃうよ、へたれは根性無しの意味や・・」  俺は意味が分かり、笑ってしまった。 「アハハ・・、大阪弁は分からん・・、ハハ・・」 「せやねん、めちゃ難しいやろ」 「坂本さん、頼むから標準語で…

   偽りの恋 Ⅶ 

 正直に話すべきだろうか、俺は悩む。知り合ったばかりの人に、話すことでもないと考えた。 「いや、いないよ。恋なんて、ほとんどが片思いだろう。それに似た恋は、したことがあるけど」  佐藤は、顔色を窺う目で俺を見ている。 「そうかしら・・」 「ああ、そうだよ」  俺は、彼女の顔を直視する。瞳には、戸惑いが見え隠れしていた。 「そう、それなら、いいわ」 「何が、いいのさ・・」  窓の外に視線を見据えた…

   偽りの恋 Ⅵ 

 今日は休日なので、寮の食事は朝食だけ。昼と夜は各自で考える決まりだ。  四人は、公園の近くにある小さな洋食のレストランに入った。時間的に、店の中は空いていた。坂本の案で、別々のテーブルに座る。 「ここのオムライスが美味しいの、私はそれにするわ」  佐藤が勧める。 「うん、俺もそれにするよ」  若いウエートレスが注文を聞きに来る。無愛想な顔で、冷えた水のグラスをテーブルの上に置く。佐藤がオムライ…