ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 Ⅴ

リベルダーデ区東洋街のホテル・ニッケイに着いたのは、昼に近い時間であった。ふたりは旅装を解き、千香は半時ほど横になる。輝明は、シャワーを浴び着替えてから、ロビーへ降りた。ロビーには、亜紀と北島がカフェを飲みながら待っていた。
「あれ、マルコスさんは・・」
「あ~、うちの運転手と一緒に食事へ行きました」
 亜紀の代わりに、北島が答える。
「そうですか。一緒に食事すれば良かったのに・・」
「輝君・・、気を使ってくれて、ありがとう」
 輝明と亜紀は、故意に避けているわけでないが、空港以来の会話をした。
「奥様は、いかがですか? 食事は?」
「亜紀さん、千香ちゃんの様子を見てきてもらえますか? 眠っていなかったので、食事のこと聞いてください。その間、北島さんと打ち合わせをしていますから」
「ええ、いいわよ。部屋はどこ?」
「十二階のスイートです。はい、これがルーム・キー」
 キーを渡す瞬間、互いの指先が触れ目線が重なった。
《もう、どうしたっていうの。いちいち意識して・・》
《なんだよ、オレは? ギラギラに目が血走って見えているだろうな》
 輝明は、亜紀がエレベーターに乗るまで、懐かしい後ろ姿を見送った。
《後ろ姿は、あの時から変わっていない。あ~ぁ、あの長い髪》
 扉が閉まる間際に、再び熱い視線が絡まる。扉から目をロビーに移すと、北島が窓側の席に座って手で合図した。輝明も了解の意味で、軽く手を上げてその場所に行く。
 亜紀は音を抑え、静かにドアーを開ける。千香は左手の部屋のベッドに座っていた。
「千香、少しは休めたの?」
「うん、平気よ。熱いシャワーを浴びて、体も心もスッキリしたわ。亜紀、お土産は後で渡すね。ずいぶん迷ったわ」
「ありがとう。でも、わざわざ用意しなくても良かったのに、土産話で十分よ。聞きたいことが沢山あるもの」
「こっちだって、山ほどあるわ」
「じゃあ、滞在中は高校の修学旅行のように、喋り捲っちゃうか・・。ふふふ・・」
「本当ね、そうしよう。そうしましょう。ね、亜紀。うふふ・・」
 亜紀は、千香の痩せ細った体を思い出し、無理な行動は避けるべきと考えた。
「食事はどうする? 輝君たちが待っているけど」
「そうね、軽い食事なら・・」
「ここには和食のレストランがあるから、行きましょう」
「うん、ちょっと待ってね。お化粧を直すから・・」
 しばらくして、亜紀が千香の体を支えながらロビーに現れた。
 千香が軽いうどん定食なら食べると言ったので、四人は二階の和食レストランへ移動した。

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