ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

忘れ水 幾星霜  第三章 Ⅰ

 機内アナウンスが流れ、一時間ほどで国際空港に到着することを伝えた。現在のブラジル時間、天気、気温などが慌ただしくアナウンスされる。
「輝坊ちゃん、朝食を残さないで、ちゃんと食べてね」
「うん、食べているよ。だけど、体を動かしていないから、お腹が空かないんだ。千香ちゃんは、あまり食べていないけど、大丈夫かい?」
「私はジュースとパンで充分よ。それより、気温が心配よ。冬から夏でしょう」
「そうだね、体調が良くないと思ったら、我慢しないで教えてね」
「はい、はい、直ぐに知らせるわ」
「空港に着いたら、薄着の準備してね」
「はい、はい、分かりました。お節介屋の輝坊ちゃん。ふふふ・・」
「お節介じゃないよ。千香ちゃんの子供たちから、耳にタコができるほど頼まれた。それに、ふたりで約束したもんね?」
「・・・」
 千香は反論しないで黙っていた。輝明の心配を、しっかり承知しているからだ。それに、輝明が彼女に内緒でブラジルを訪れていたことを、輝明の兄から聞いている。滞在中は、彼と北島に任せることで安心していた。
 機首が徐々に高度を下げ始めた。千香の横の小窓には、雲の筋が激しい勢いで後ろへ流される。輝明は、この雲の流れを二度経験していた。最初は、初めて訪れるブラジルに期待と不安を感じながら眺め、二度目は、期待も不安も覚えず、ただ眺めていたに過ぎなかった。
 今回は、期待と不安が重圧となり、平静を装うのに苦労している輝明であった。
《輝坊ちゃん、冷静にしているけど、やはり不安なんだろうな。再会がうまく行くことを願うわ》
 到頭その日が訪れた。この一週間、亜紀の心は揺れ動き、果たして正面から向き合えるのか苦渋の日々を過ごしていた。
《あ~ぁ、心の準備ができていないわ。どうしよう・・》
 {ピンポ~ン}
 ドアのチャイムが鳴った。ドアを開けると、約束したマルコスが迎えに来てくれた。
「ボン・ヂーア、マルシア」
「マルコス、おはよう」
 亜紀は、朝早くに来るマルコスのために、サンドイッチとミルク入りカフェを用意していた。
「わぁ~、美味しそう。お腹がペコペコだ!」
「さあ、早く食べてね。今日は、ありがとう」
「ううん、問題ないよ。佐和さんからマルシアを守れって、言われたから。守れなかったら、園の仕事を首だって・・さ。アッハハハ・・」
 彼はサンドイッチを口の中に頬張りながら、照れ臭そうに答える。
「うふふふ・・、面白いマルコス。慌てないで食べなさい」
 二時間後の七時過ぎに、サン・パウロ郊外のグアリューリョス国際空港に到着。ふたりは駐車場から到着ロビーまで、あたふたと走った。

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