ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

無題 Ⅱ

「仕方ないな、続きは外でやろう」
 勇ちゃんが困った顔で、孝夫ちゃんに言った。
「じゃあ、そうしよう。四人はこっちに来てくれ」
 外はやぶ蚊だらけで大変だ。オレ達は渋々集まった。敏ちゃんが自分の頬を平手で叩く。オレも左手の甲を刺されたので、ボリボリと掻いた。ほかの皆も叩いたり掻いたりで忙しい。
「貴ちゃんの家に、八ミリカメラがあったよね? それ借りられるかな?」
「うん、大丈夫だと思う」
「じゃあ、それで、映画を作ってくれ」
それを聞いたオレ達は、意味が分からなくポカンとした。
「孝夫ちゃん、何の映画を作ればいいんだよ?」と、貴ちゃんが聞いた。
「なんでもいいよ。四人に任せたから・・」
 蚊に悩ませれ、我慢できなくなった敏ちゃんが恐る恐る本部の中に入った。すぐに顔を出し、呼んだ。
「もう平気だから、早くおいでよ」と、手招きをする。幸雄ちゃんが中に入って、蚊取り線香をたく。蚊に刺されずに済むと思い、全員がホッとした。狭い本部の中はワイワイと大騒ぎになった。
「おっほん!」
 じっと黙って聞いていた勇ちゃんが、大きな咳払いをしたので一瞬話をやめた。そして、四人に勇ちゃんのそばに来るよう手招きをした。四人は怖々と近づく。もっと近くに寄るよう手招きを繰り返す。四人は勇ちゃんの鼻先まで顔を寄せた。
「ワッ!」と、勇ちゃんが突如大声を上げた。四人は驚き飛び跳ねる。その拍子に敏ちゃんと慎ちゃんが互いに頭を打ち付ける。オレと貴ちゃんが床に尻を打ち付けてしまった。
「アッハハハ・・」
「なんだよ、勇ちゃん! びっくりするじゃあないか・・」
「ハハハ・・、わ、悪かった。ふふふ・・」
 勇ちゃんは謝りながら笑い続ける。孝夫ちゃん、幸雄ちゃんも笑いが止まらない。
「これはメンバーになった儀式だ。ふふふ・・」と、孝夫ちゃんが説明した。
「さて、明日は洞窟探検に連れて行くからな」
「えっ、どこへ行くの?」
 敏ちゃんが痛めた頭を摩りながら、幸雄ちゃんに聞いた。
「根小屋の洞窟だ。お弁当と水筒を用意するんだよ。いいね」
 四人は目を輝かせ、あすの探検に興奮した。
「今日は、これで解散だ」と、勇ちゃんが告げた。


翌日の朝、駄菓子屋の勇ちゃん地の前に集合した。オレは姉ちゃんが作ってくれたおにぎりを用意したが、何人かは勇ちゃん地の菓子パンを買った。全員が流行りの粉末ジュースを買って、それぞれの水筒の水に溶かした。
「慎ちゃん、なんのジュース?」
「オレンジ・ジュースさ、輝ちゃんは?」
「うん、オレはパインだよ」
「準備はいいか! 出発だ~」と、孝夫ちゃんが声を上げた。
「おう!」
 全員が空に向かって拳を突き上げた。昨日の本部に集まった七人のほか、浩ちゃん、福ちゃんとオコちゃんに賢ちゃんだ。
 街中を通って烏川に架かる上信電鉄の鉄橋に到着。オレ達四人は、鉄橋を見て驚く。下に流れる烏川からの高さに唖然とする。オレは、鉄橋を渡るとは思わなかったので体が震えた。
「オコちゃん、本当にこれを渡るの?」と、そっと聞いた。
「うん、そうだよ。俺も最初は怖かったけど、もう平気だよ。大丈夫だよ輝ちゃん」
 そのとき、勇ちゃんが大声で指示を出した。
「幸雄ちゃんと浩ちゃん! 孝夫ちゃんがOKしたら先に渡って、橋の真ん中で待ってくれ。ロープを忘れるなよ」
 オコちゃんがレールに直接耳をあて、電車音を聞こうとする。
「アッチチ・・、熱くて触れないよ。耳がヤケドしちゃう」
「オコ、直接じゃなくて冷えた小石を使えばいいんだよ」と、兄の孝夫ちゃんが教える。
「そうか、そうなんだ。なるほどね」
「オコ、聞こえるか?」
「いや、何も聞こえないよ」
「よし、勇ちゃん! OKだ!」
 孝夫ちゃんの合図で、幸雄ちゃんと浩ちゃんが鉄橋を渡り始める。オレの心臓がバクバクと高鳴った。勇ちゃんがオレ達に渡るよう告げた。
「次、新米の四人は順番に渡れ!」
 四人は互いに顔を見合わせ、誰が先に行くのか迷った。
《誰が行くんだ。途中で電車が来たら・・、でも、渡らないと弱虫と思われちゃう。メンバーが外されたら困る。あ~、どうしたら・・。ん?》
 敏ちゃんがスッと前に出て渡り始めた。オレも決心して後を追う。すると貴ちゃんと慎ちゃんも仕方なくオレの後ろについて来た。鉄橋の真ん中に来たとき、オコちゃんが叫んだ。
「電車が来るぞ~」
 オレ達四人は、その場に立ち竦む。
「幸雄ちゃん! その四人を早く下に降ろせ!」と、勇ちゃんが知らせる。
 浩ちゃんが線路脇の柵にロープを結び、先に下の橋脚で待つ。オレ達は体にロープを結び付け、無我夢中で降りた。しばらくすると、三両編成の電車が畑の中に姿を現した。
“ブオー、ブオー”と、警笛を鳴らす。コンクリートの柱に身を隠し、真上の電車を見上げる。
“グオー、ゴットン、ゴットン”
《凄い、凄いぞ。姉ちゃんに話したら驚くだろうなぁ》
「よし、早く上がれ!」
 先に上って待っている幸雄ちゃんがロープを引っ張る。浩ちゃんが下から押し上げ、四人は無事に鉄橋の線路の上に戻った。初めて経験した四人は、残りの鉄橋を渡り終えるが高揚した気持ちを抑えられなかった。
「すげえな、やっぱり探検はすげえや。なっ、輝ちゃん?」
「うん、やったな! 敏ちゃん」
 オレは喉がカラカラに渇き、水筒のパイン・ジュースを一口、二口と大事に飲んだ。横のオコちゃんもゴクン、ゴクンと飲む。
「あ~、うめえなあ~」と、幸せな声を上げた。
「さあ、急いで走れ!」
 近くの駅から誰かが来ないうちに、線路から田圃道に出るまで全速力で走った。全員が顔を真っ赤にして走る。
 半時ほどで洞窟に着いたが、それほど深くなくすぐに飽きてしまった。近くの小川で持参の弁当を食べながら遊ぶことになった。
「向こう側にヘビがいるぞ!」と、賢ちゃんが発見した。オレはその方向に目をやる。誰かが小石を投げた。すると、鎌首をもたげ、こちらをじっと見つめている。勇ちゃんが叫んだ。
「やばい! あれはマムシだ! こっちに来るぞ。早く逃げろ」
 オレ達四人は、土手を駆け上がり逃げる。振り返って様子を見ると、幸雄ちゃんと賢ちゃんが逃げずに石を投げ続けている。突如、ふたりが慌ててこちらへ走って来た。
「まっすぐに走るな!」
「勇ちゃん、どうしてまっすぐじゃ、だめなんだ」と、オレは聞いた。
「どうしてって、ヘビは急に横へ曲がることができないからだ」
「ふ~ん、そうなんだ」
 逃げてきた幸雄ちゃんと賢ちゃんが、水筒のジュースを飲みながら、
「あ~、驚いた。石が当たったらすごい速さで川を泳ぎ始めたよ」
 こうして、初めての探検は終わった。帰りは、田圃のあぜ道を通り聖橋を渡って戻った。オレ歩きながら、映画の話を三人にしてみた。
「どうする、映画のことだけど・・」
「あれね、俺は戦艦大和のプラモデルをもっているから、戦争映画でどうだ? それを浮かべてさ戦闘機が襲う。2B弾で撃沈の場面を映すのさ。いい考えだろう」と、敏ちゃんが考えていたことを誇らしげに話した。
「うん、それ面白そうだ。貴ちゃん、どう?」
「それ、いいね。帰ったらストーリを考えるよ」
「あっ、オレ。小さいけど戦闘機を二機持っているから、釣り糸でぶら下げて映すか」
 四人は足の疲れも気にせず、騒ぎながら本部に戻った。一旦、家に帰ってから夕飯を食べ、再び本部で打ち合わせ会議をすることにした。

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