微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅡⅩⅣ
邪鬼の姿が見える私と若月が、揺れる木々の周辺を凝視する。
「やはり、隠れているな。ただ、権助の姿が無い」
「いえ、あの大木の後ろにいますよ。主任・・」
「そうか、指で示すなよ。ヤツは、こっちが気付いていないと思っているようだ」
残念なことに、渡瀬と明菜が若月の言葉を聞いて、大木の方を眺め助手たちに知らせてしまった。彼らは、方向を指しながら騒いだ。
「ダメだ。見るんじゃない! 早く中に入れ!」
私が怒鳴った。
「主任、ヤツらが狂態な動きで、こちらに向かってきます」
牙を露骨に見せ、ゾロゾロと林の中から出て来た。
「これは、不味い・・。若月君、みんなに沈香の粉を振りかけろ」
咄嗟に沈香の粉を、助手たちに振り掛ける若月。さらに、福沢がご朱印の守り袋を、彼らの首にぶら下げた。
「え~、邪鬼が見えた!」
「ええ、私も見えるわ。いやぁ~、何よこれ、気味が悪い」
思い掛けない効果に、私も驚いた。
「ヨシ。結果オ~ライだ!」
福沢が半信半疑で試した効果が、寸前で活用できた。彼が私に目配せする。
「後で、説明しますよ」
私は頷いた。
「さあ、早く、早く中に入れ! ギリギリで豚の内臓を投げろ!」
最後尾の福沢と助手の畠山が、内臓の袋を用意した。
「キサマら~、待たんか~、ガァ~・・」
権助が現れた。以前より体形が大きく、他の邪鬼が小さく見える。
「よし、畠山。投げるぞ!」
「はい、先生・・」
二人が同時に内臓を投げた。直ぐに、先頭の邪鬼が飛びつく。バリバリ、ムシャムシャと食べる。他の邪鬼も負けずに奪い合う。駐車場が瞬時に修羅場と化した。