微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅦ
ただ、私は気になった。高崎の洞窟観音へ行かねば、会えなかったはずの千代さんに会え、この御堂が私たちの前に現れた。
「御堂さん、千代さんにしてもあなたにしても、どこから来られたのですか?」
「ああ、そのことね。前回の雑木林にある冥府の境界線よ」
「えっ、あそこは封鎖されたはず・・」
御堂が、小声で答える。
「だから、小さな道祖神を抜け穴に利用しているの。邪鬼に知られたら大変よ」
「そうか、納得しました」
でも、彼女は浮かぬ顔を見せる。私は不審に思った。
「残念なことに、道祖神様が許したのは、私と典侍だけなの」
若月が、恐れ戦く。
「それじゃ、邪鬼に勝てない」
「ええ、私も思います。どう対応すれば・・」
福沢も同調する。
「心配無用よ。高崎の洞窟観音なら、宮中の守護や防人らが通れます。そうなれば、邪鬼を壊滅できるでしょう」
「あ~、助かった」
福沢と若月が気を許す。
「だから、一刻も早く高崎へ行くべきだ。ご朱印の札を張り、守護や防人に道を開けねばならない」
福沢が急かし、若月が賛同した。
「そうか・・。主任、今からでも行きましょうよ」
「いや、それは無理だ。この時間は閉館で中に入れない」
私の意見に、重い空気が流れる。
「いいわ、私がなんとかする。ただ、私が道祖神の中へ入れば、邪鬼が気付くと思う」
「だったら、僕が囮になりヤツらを引き寄せるよ」
「それは、危険だ。直ぐに捕まり殺されてしまう」
権助の執念と邪鬼の本性を思うと、非常に困難だった。
「仕方がない。私ら三人で誘き寄せよう。くれぐれも邪鬼を侮らないことだ」