微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅥ
「大河内さん、あなたは典侍に会われたでしょう? あの方がとても心配して、私をこの世に送り出したの」
「はい、昨晩話すことができました。でも、御堂さんのことは、何も触れませんでした」
「ええ、分かっています。あなたの家の近くに、邪鬼の群れが集まり、情報を手に入れようと必死だったの。だから、敢えて私の名前を伝えなかった・・」
「それでは、あなたは私たちの味方ですね?」
彼女は頷いた。私たち三人も、納得して頷く。
「味方と言っても、どれほどお役に立つか分かりません。今回は、非常に危険です」
御堂の、非常に危険と言う言葉は、彼女の表情に強く現れた。私たち三人が、怖さに息を飲むほどである。
「やはり、僕が一番危険と言うことですね」
若月が恐る恐る尋ねると、彼女は穏やかな表情で彼を見つめた。
「安心しなさい。必ず、恩人のあなたを守るわ。これは内室からの命令なの」
そして、福沢に目を移すと、愛しい眼差しで言葉を掛ける。
「あなたね、紗理奈の婚約者は・・」
福沢の顔が、一瞬強張る。
「えっ? な、何故?」
御堂が、にこやかに首を傾げる仕草。
「彼女は、私の子孫なの」
私と福沢が驚く。
「それで、紗理奈さんは・・」
縋る思いで尋ねる福沢。
「あの子、反省していたわ。あなたと、幸せに暮らしたかったそうよ。でも、仕方がないわね。三途の川を渡らなければ、邪鬼に引き裂かれていたもの。大河内さんのお陰で救われ、黄泉の世界へ行けた」
確かに、邪鬼に引き裂かれ食い殺されたら、怨霊となって邪鬼の仲間で暮らすしかない。私は、紗理奈が懸命に三途の川を渡るところを、最後の瞬間に見ていた。無事に渡れたと聞き及び、ホッとする。
急に外の雲行きが怪しくなった。御堂が眉をひそめる。悪寒が私の背筋を走った。
「いよいよ始まるわ。注意を怠らないで・・」