微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅦ
私は忘れないように、教えられた番号をメモする。
《しかし、驚いたなぁ。千代さんが現れるなんて・・》
朝までまどろみ、すっきりしないで起床した。熱いシャワーを浴び、眠気覚ましの強いコーヒーを飲んだ。朝食を済ませると、急ぎ駅に向かう。
「なんだろう?」
歩く私に、後ろから強い視線を感じる。振り向くが、通勤の人たちだけ。仕方なく、駅前のコンビニに寄る。棚の陰から外を眺めた。男女の怪しい若者が、中を覗いている。不審な態度に、私は違和感を感じた。
《なんだか、嫌な感じだな。用心した方が、良さそうだ》
必要の無い雑誌を購入し、外へ出る。私から近寄り、わざとらしくお経を唱えた。
「ギャァ~、おのれぇ~。あほくさいこと、やりよって・・。バカめが・・」
瞬時に形相を変え、口汚く罵る。目が血走り、臭く汚れた鋭い牙。驚きの余り、腰が砕けそうになり、私はよろけてしまった。
「ウフフ・・、お前たちは生かしておけぬ。フフ・・」
その時、和服姿の女性が、私を支えてくれた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます」
周囲を見ると、ヤツらの姿は消えていた。
「どうしたのですか?」
辺りを見渡す私の仕草に、怪訝な様子だ。
「いえ、なんでも無いです」
「ところで、妙なことを、伺っても宜しいかしら?」
「はい、どうぞ・・」
彼女は恥じらいながら、尋ねる。
「先ほど、お経を唱えていたでしょう? あなたがよろける寸前、私の背中に寒気を感じたの。不思議な感覚だったわ」
「・・・」
「あれって、何かしら?」
彼女は、感じることができる人だ。でも、簡単に話す内容ではない。私は惑乱する。