微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)ⅩⅣ
「確かにそうですね。ヤツらの姿が見えれば、襲われても逃げられる。また、反撃できますからね」
若月は、若いし気力もある。しかし、邪鬼の本当の怖さを知らない。私は不安を覚え、彼の向う見ずな行動を注意するつもりでいた。
私たちは、気付いていない素振りを続けた。ヤツは面白がっている。
「若月、ドアが閉まる寸前に降りるぞ。いいな・・」
私は前を見据えたまま、彼に伝えた。
「はい、主任・・」
新宿駅に到着。ヤツは降りようとしたが、私たちが動かないので慌てて戻る。発車のチャイムが鳴り終わる瞬間に、私たちは行動した。間一髪でドアをすり抜ける。
降り損ねたヤツが、醜い形相を一瞬露わにした。ただ、その姿は私たちだけにしか見えない。若月が身震いする。
「本当に嫌な顔だ。寒気がする」
「ヤツらの姿を、好きな人間がいると思うか?」
「いないでしょうね・・。アハハ・・」
笑いながら、新宿駅前に出た。
「何か愉快なことでも・・」
待っていた福沢に、声を掛けられる。駅構内の話を説明した。
「それは愉快だ。それにしても、お二人に邪気の姿が見えるなんて驚いた。羨ましいですね」
「いいえ、羨ましくもありません。気味が悪く、胸がむかつきます」
若月が吐きそうな真似をした。私と福沢は大笑い。
「吐きそうな気分で悪いが、何かを食べながら話しましょうか・・」
「いや、腹が減って、食べるには問題無いです」
三人は笑い。福沢の案内で、近くのビル内にあるイタリア料理店へ行く。
「ここなら、ゆっくり話し合える。どうでしょう?」
広々として洒落た雰囲気の店内であった。私は頷いたが、心が落ち着かない。
「浮かぬ顔ですが?」
私の顔に、福沢が心配する。
「ええ、さっきから腑に落ちないんです。私たちの行き先を、どこで知ったんだろう?」