微雨のささめき(大河内晋介シリーズ第四弾)Ⅴ
その声は、雑音に抗い必死に呼びかける。
「助けて~、私を、ザザー、ガガッ・・助けて、ザザーッ、お願い」
私は声を振り絞って、応えた。
「分かった。ただ、内容を詳しく説明してくれ」
「うん、ガガッ、ガガ~、でも、後で・・」
消えてしまった。
「若月、この車を買った販売店は、どこだ?」
「あ~、これはネットで探しました。奇妙なことに、販売店は分かりません。指定された口座に、金額を支払うと・・」
若月が黙って考える。
「支払うと、どうしたんだ?」
「ええ、実は全額払っていないんです。たった5万円を、頭金で支払いました」
「たった5万円の車?」
彼はきまりが悪く、わざとらしい咳払い。私は笑ってしまった。
「何が可笑しいのですか? 騙したつもりは、ありませんよ」
手元の缶コーヒーを飲み干し、彼は一気に説明する。
「翌日に車が届き、喜んでチェックしました。何も問題無く、直ぐに残金を払うつもりでいた。でも、ATMで振り込もうとしたら、口座が消えて払えない」
私にお手上げの顔を見せる。私も不思議に思った。
「ネット・オークションも調べたが、抹消されている。狐につままれた感じです。今でも連絡を待っていますよ」
「だけど、本当の金額は幾らで買ったんだい?」
「ええ、130万円です。普通なら、中古でも200万円以上ですよ」
ますます変な話だと、私と若月は考えた。
「次の日曜日、予定は有るかい?」
私が思うことを、彼に説明する。日曜日に、この車の隅々を調べることにした。