ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅧⅩⅧ 

 あの日から、二年が過ぎ去った。俺は研修期間が終了し、ブラジルの企業に面接。三ヶ月後の昨日、合格通知の手紙が届く。その場で、千恵に電話した。
「あっ、金ちゃん・・。どうしたの?」
「明日の午後に、会えるかな?」
 しばらく、沈黙が続く。俺は不安になった。
「うん、いいよ。本当に、会えるんだね・・」
 か細い声が聞こえてきた。
「そうだよ、待たせて悪かったね。ようやく、夢が叶った」
「ううん、悪くないよ。でも、良かったね。私もホッとした」
 元の溌剌した千恵の声に戻った。千恵は工場勤めを辞め、渋谷の料理専門学校へ通っている。この二年間、互いに約束を守り、電話のみで心を通わせた。
 ただ、幾度も心が折れ、約束をほごしそうになる。その都度、千恵が諌めた。そんな彼女に、益々魅了される。
 約束の場所を、何故か日比谷公園にした。噴水の前で待つ。飛沫が心地よい。公会堂の方へ目を向けると、浅緑の艶やかなワンピース姿のあの人が手を振る。俺の胸がときめく。
「金ちゃん、待ったの?」
 ポニーテールが爽やかに揺れ、俺の心を擽る。
「いいや、さっき着いたばかりだ」
 目の前の女性はあの人でなく、紛れも無く千恵であった。この二年で、小悪魔の千恵は淑やかな大人の女性に、変貌している。その姿に、俺の心が宙を舞う。
 テラスのあるレストランへ誘う。千恵が俺の腕に、しっとりする腕を絡ませた。久しぶりの感触に、俺の体がざわめく。
 木陰の白いテーブル席に座らせた。千恵の姿が、木漏れ日に良く映える。
「飲み物は?」
「うん、金ちゃんと同じ紅茶にして・・」
 注文すると、千恵の顔を直視した。彼女も俺に視線を合わせる。
「俺の想像通りだった・・」
「えっ、何が想像通りなの?」
 ちょこっと首を傾げ、人差し指で鼻を弾く。
「ああ、小悪魔が天女に。摩訶不思議なことだけど、俺は信じていた」

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