偽りの恋 ⅧⅩⅥ
「うん、そうしよう。じゃ、しばらくは、お別れだ」
「えっ、本当に会えないの?」
ベンチから立ち上がり、俺を見下ろす。俺は座ったまま、見上げて頷く。
「どれほど、苦しめるつもりなの? これ以上苦しめるなら、私、死んじゃうから」
仕方なく、俺は立ち上がる。そして、抱きしめた。
「千恵ちゃん、永遠に別れることじゃないよ。しばらくの間だ・・」
「しばらくって、一週間、二週間?」
「いや、もっとかな」
俺の腕を振り払い、二三歩退く。
「本当は、私のこと嫌いなんでしょう? だから、会いたくないんだ・・」
涙を浮かべ、恨めしそうに俺を見る。
「違うよ。嫌いじゃないって! 好き嫌いで、会わないんじゃないよ」
感情が高ぶり、肩で息をする千恵。
「千恵ちゃん、落ち着いて・・。俺の言い方が悪かった。別れじゃない。互いを冷静に考える期間だ」
「嫌よ。この数日、会えなくて寂しかったもん・・」
「だから、俺は携帯の待ち受け画面に、千恵ちゃんの姿を使うよ。それに、寂しい時は電話で話せばいいだろう」
「あっ、そうか。会えなくても、話せるんだよね」
機嫌が直ったようだ。
「千恵ちゃん、数か月後に、夢が実現となる大事な時期なんだ。だから、俺は勉強に集中する必要がある」
「そうよね、金ちゃんは学校の生徒。勉強が大切よね。私って、自分だけのことしか、考えていなかったわ」
彼女はハンケチを取り出し、自分の涙を拭う。そして、笑顔を見せた。
「それでね、頼みがあるんだ」
「頼みって、何を?」
俺は千恵が可愛くて好きだが、少し若すぎる。魅惑的な大人の女性と、熱烈な恋がしたい。さて、彼女は納得するかな・・。
「うん、君が艶やかな女性になることを、望んでいる」
「え~、艶やかな女性? 意味が分かんない」