偽りの恋 ⅧⅩⅤ
「あいや~、間違えた。性欲じゃなく、快楽だった。だから、そんな気持で、恋を始めたら大変だ」
俺は支離滅裂な状況に陥った。千恵は面白そうに聞いている。
「だから、なんなの? うっふ・・、金ちゃんを困らせるって、楽しい。ふふ・・」
「うー、参った」
あの時の、千恵の姿を思い出してしまった。頭に焼き付いたイメージを、懸命に拭い去る。あ~、汗だくだ。
「金ちゃん、安心してよ。確かに、あの時は無我夢中だったわ。でも、弥彦の連中と同じことを、私がやっていると気付いたの」
千恵が笑いを止めて、真剣な眼差しで俺を見る。
「弥彦の連中?」
「そうよ。恋じゃなく、遊べる仲間を強引に勧誘するの。断れば、酷い仕返しが待っていたわ。その所為で、幾人もの女子高生が泣いた。私は嫌で、逃げて隠れたわ。でも、毎日のように待ち伏せし、私を狙っていたの」
「え~、それは怖かったろう。捕まらなかったのかい?」
「ええ、もう少しで裸にされ、危なかった。祖母ちゃんが学校と駐在所に通報して、助けてもらったの」
思い出して、身を縮める仕草。
「そうか、これで佐藤さんの説明が理解できた」
「え、何を説明したの?」
「お祖母ちゃんが、千恵ちゃんを遠い神奈川へ寄越した理由さ」
「ああ、嫌な思いでね。そうよ、弥彦に戻って住むなんて、ぜんぜん無いわ」
その言葉に、千恵の視線が訴える。俺はドキッとした。
「だから、早く素敵な人に巡り合い、恋をしたかったの。そして、結婚する」
強烈な眼差しが、俺の脳を釘付けにする。俺の思考は固定された。
「その素敵な人が、金ちゃんなの。Did you get!」
なぬ? 英語か?
「Yes,I’ve got it」
これでいいのかな? まあ、いいや。
「じゃ、素敵な恋をしましょう。ねっ、金ちゃん・・」