偽りの恋 ⅡⅩⅠ
公園内のテラスのあるレストラン。木陰のテーブル席に座る。飲み物を注文するが、しばらく会話がない。互いに記憶を模索する感じだ。
「それで、今は何している?」
仕方なく、俺が先に口を開いた。
「ええ、特に変わったことは、ないわ」
遠くの景色に視線を置き、虚ろに答えた。あの人の視線の先を、俺も見る。
「そう・・か。・・・」
公園内に人の影が増え、ざわめき声が爽やかな風に運ばれて来る。
「ところで、今日の話は・・」
「ああ、そのこと・・。あなたの気持ちは、もう変わらないのね」
「ん? 変わらないって?」
「外国に住むことよ」
俺の心は、目の前にいる。でも、無理なんだ。どうあがいても無理なんだ。
「もう、変えられない。前を向くしかないんだ」
注文の飲み物が、テーブルに置かれた。あの人が、俺の紅茶に砂糖を入れる。小さじに二杯。俺は黙って見ていた。
「それで、いつ行かれるの?」
「いや、まだ決まっていない。卒業して、実習を受けてからだ」
「・・・」
俺はティー・カップの紅茶を飲んだ。香りと渋みが口の中を満たす。あの人も自分の紅茶を飲んだ。
「来週、実家に帰るわ。帰れば、父が紹介する人とお見合いなの・・」
手に持つカップを、ぎこちなくソーサに戻す。
「えっ、お見合い?」
「ええ、そうよ」
あの人は、カップ越しに俺を直視する。その視線は、俺の心を覗き見るようだ。
「・・・」
それ以上の言葉を思い出せない。俺は卑怯だと思った。
「なぜ、父が急ぐか、理由はご存知でしょう?」
「ああ、理解している。本当に、済まないと思っている」
俺は詫びるしかなかった。ただ、後悔はしていない。