ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅡⅩⅠ 

 公園内のテラスのあるレストラン。木陰のテーブル席に座る。飲み物を注文するが、しばらく会話がない。互いに記憶を模索する感じだ。
「それで、今は何している?」
 仕方なく、俺が先に口を開いた。
「ええ、特に変わったことは、ないわ」
 遠くの景色に視線を置き、虚ろに答えた。あの人の視線の先を、俺も見る。
「そう・・か。・・・」
 公園内に人の影が増え、ざわめき声が爽やかな風に運ばれて来る。
「ところで、今日の話は・・」
「ああ、そのこと・・。あなたの気持ちは、もう変わらないのね」
「ん? 変わらないって?」
「外国に住むことよ」
 俺の心は、目の前にいる。でも、無理なんだ。どうあがいても無理なんだ。
「もう、変えられない。前を向くしかないんだ」
 注文の飲み物が、テーブルに置かれた。あの人が、俺の紅茶に砂糖を入れる。小さじに二杯。俺は黙って見ていた。
「それで、いつ行かれるの?」
「いや、まだ決まっていない。卒業して、実習を受けてからだ」
「・・・」
 俺はティー・カップの紅茶を飲んだ。香りと渋みが口の中を満たす。あの人も自分の紅茶を飲んだ。
「来週、実家に帰るわ。帰れば、父が紹介する人とお見合いなの・・」
 手に持つカップを、ぎこちなくソーサに戻す。
「えっ、お見合い?」
「ええ、そうよ」
 あの人は、カップ越しに俺を直視する。その視線は、俺の心を覗き見るようだ。
「・・・」
 それ以上の言葉を思い出せない。俺は卑怯だと思った。
「なぜ、父が急ぐか、理由はご存知でしょう?」
「ああ、理解している。本当に、済まないと思っている」
 俺は詫びるしかなかった。ただ、後悔はしていない。

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