ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅤ 

 彼女の願いは叶えたい。本能的に望んでいる。でも、恋を前提とするキスではない。
「うん、いいよ」
 俺の心を騙している返事だった。
「・・・」
 佐藤は体を寄せ、唇を近づけた。瞼をしっかり閉じている。
「・・・」
 左手で彼女の肩を抱いた。唇を重ねる。俺の意識は、周りの景色も風も断ち切った。同伴喫茶のキスとは、まったく異なる。積極的な佐藤のキスは、俺の脳を刺激した。
 初めて経験する官能的なキスは、激しかった。彼女は我を忘れ、時間も忘れるほど悶える。しかし、決して長い時間ではなかった。唇を離すと、体を預けたまま息を整える。
「ありがとう、金ちゃん・・」
 佐藤の感謝を、不思議な気持ちで聞いた。
「・・・」
 俺は答える言葉が見つからない。目前に控えている別れの瞬間。彼女の悲痛を考えてしまった。もちろん、俺も苦しむだろう。
「金ちゃん・・、この恋が、どんなものなのか理解しているわ」
「・・・」
「でも、いいの。思い出の無い青春なんて、余りにも寂しすぎるもの。今までの私には、青春なんて縁が無かった。東北の田舎暮らしから都会に憧れて来たけど、工場と寮を往復する毎日よ。閑寂な日々だったわ」
 華やかな都会の生活。確かに、俺も憧れた。だが、地下鉄の通勤地獄、殺伐な人間関係。日々煩雑な仕事に追われ、疲労困憊で寮に帰る。華やかさなんて、どこにも見出せなかった。
「青春なんて、かっこいい言葉だけど。どこにでも有る訳ないよな。だから、身近な恋愛が、青春と思ってしまう。一番簡単に手に入るからね」
「えっ、金ちゃんの考えって、面白い発想ね」
「そうかなぁ。若者同士が集まって騒ぐことや、異性との交流が青春と思うけど、俺は違うと思っている」
 佐藤は驚き、身を引いて目を丸くした。
「金ちゃんの考えている意味が、私には全然理解できないわ」
「そうか、やっぱりね。俺は変人なんだろうな・・」

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