ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅣ

 いや、初めてではない。前にひとりだけ連れて来た女の子がいる。でも、それは特別な感情を抱くことは無かった。むしろ、俺の憧れである妹的存在かもしれない。
「ひとつ、聞いてもいいかしら?」
「うっ、何を?」
「もし、もしよ。ん~、あのね」
 佐藤は、言葉を探している。
「いいから、何でも聞いていいよ」
「うん、私が金ちゃんを好きになったら、どう思う?」
 俺は目まぐるしく、答えを考えた。今の俺には、新しい恋は考えられない。
「・・・」
「突然に、聞くなんて変よね。やっぱり、無理な話かな」
「いや、無理じゃないさ」
「えっ、好きになっても、いいの?」
「好きになるのは、勝手だよ。俺なんか、どのくらい好きになったか。覚えられないほどだ」
「・・・」
 俺の答えに、彼女は困惑した。
「ごめん、俺の言い方が悪かった。俺だって、佐藤さんを好きだと思っている」
 前の池を、黙ったまま見詰める彼女。その横顔に愁いが浮ぶ。
「だけど、今の俺は恋ができないんだ。卒業して実習後には、日本を離れるからだ」
「ええ、そうよね。金ちゃんには、大きな夢が有るものね。羨ましいわ」
「だから、別れると知っていながら、恋なんてできない。相手を苦しめるだけだ」
「・・・」
「もちろん、自分だって苦しむ」
 現実に、俺は苦しんでいる。夢なんて捨てて、恋ではなく愛を選びたい。
「本当は、苦しんでいるんでしょう。私も、そんな恋を経験したいわ」
「えっ、それはダメだ。佐藤さんは、素敵な恋が似合う人だと思う」
 彼女が急に微笑み、目を輝かせて俺を見た。
「うふふ・・、素敵な恋が似合う私?」
「何が、可笑しいのさ? だって、本当だよ」
「ありがとう、金ちゃん・・。でもね、もう遅い・・」
 頬を赤らめ、瞳に涙を浮かべて俺を見詰める。
「・・・」
「金ちゃん、もう一度キスしてくれる? お願いよ」

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