ウイルソン金井の創作小説

フィクション、ノンフィクション創作小説。主に短編。恋愛、オカルトなど

創作小説を紹介
 偽りの恋 愛を捨て、夢を選ぶが・・。
 謂れ無き存在 運命の人。出会いと確信。
 嫌われしもの 遥かな旅 99%の人間から嫌われる生き物。笑い、涙、ロマンス、親子の絆。
 漂泊の慕情 思いがけない別れの言葉。
 忘れ水 幾星霜  山野の忘れ水のように、密かに流れ着ける愛を求めて・・。
 青き残月(老少不定) ゆうあい教室の広汎性発達障害の浩ちゃん。 
 浸潤の香気 大河内晋介シリーズ第三弾。行きずりの女性。不思議な香りが漂う彼女は? 
 冥府の約束 大河内晋介シリーズ第二弾。日本海の砂浜で知り合った若き女性。初秋の一週間だけの命。
 雨宿り 大河内晋介シリーズ。夢に現れる和服姿の美しい女性。
 ア・ブルー・ティアズ(蒼き雫)夜間の救急病院、生と死のドラマ。

   偽りの恋 ⅩⅡ 

 佐藤のショート・カットの髪を触る。
「佐藤さんの髪って、サラサラしているね」
「あ~、何よ。この感覚・・」
 佐藤は気持ち良さそうに、頭を反らす。俺は触り続けた。
「もう、ダメ・・」
 上気した顔に潤んだ瞳の彼女が、俺の顔を見詰める。俺は知らぬ顔で、アイス・コーヒーを飲んだ。
「もう、金ちゃんって、意地悪なんだから・・」
 その瞬間、佐藤が抱きついてきた。甘い香りが、俺の鼻をくすぐる。
「何が、意地悪なんだ?」
「狡い。知っているくせに・・」
 彼女が頭をもたげた。目の前に、ふくよかな唇が見える。
「ねえ、キスして・・」
「え、キス?」
 俺の脳は目まぐるしく回転した。恋した人に望めなかった、不条理な経験。
「・・・」
「・・・」
 二人の唇が重なった。俺の脳に、激しい電流が流れる。もう、見境がつかない二人の時間。
「金ちゃん・・」
 息が途切れ、二人の唇は離れた。
「・・・」
「・・・」
 俺の心に、快感と虚無感が混在する。ソファの背に凭れ、天を仰いだ。
「どうしたの、金ちゃん?」
「いや、なんでもないよ」
「なら、いいけど・・。私、まだドキドキしている。ふぅ~・・」
 佐藤は胸を押さえ、心を落ち着かせる仕草。
「もう、ここを出ようか?」
 何故か、ここから離れたくなった。妙な気持ちが、俺を急かすからだ。
「ええ、出ましょう・・」

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