偽りの恋 ⅩⅡ
佐藤のショート・カットの髪を触る。
「佐藤さんの髪って、サラサラしているね」
「あ~、何よ。この感覚・・」
佐藤は気持ち良さそうに、頭を反らす。俺は触り続けた。
「もう、ダメ・・」
上気した顔に潤んだ瞳の彼女が、俺の顔を見詰める。俺は知らぬ顔で、アイス・コーヒーを飲んだ。
「もう、金ちゃんって、意地悪なんだから・・」
その瞬間、佐藤が抱きついてきた。甘い香りが、俺の鼻をくすぐる。
「何が、意地悪なんだ?」
「狡い。知っているくせに・・」
彼女が頭をもたげた。目の前に、ふくよかな唇が見える。
「ねえ、キスして・・」
「え、キス?」
俺の脳は目まぐるしく回転した。恋した人に望めなかった、不条理な経験。
「・・・」
「・・・」
二人の唇が重なった。俺の脳に、激しい電流が流れる。もう、見境がつかない二人の時間。
「金ちゃん・・」
息が途切れ、二人の唇は離れた。
「・・・」
「・・・」
俺の心に、快感と虚無感が混在する。ソファの背に凭れ、天を仰いだ。
「どうしたの、金ちゃん?」
「いや、なんでもないよ」
「なら、いいけど・・。私、まだドキドキしている。ふぅ~・・」
佐藤は胸を押さえ、心を落ち着かせる仕草。
「もう、ここを出ようか?」
何故か、ここから離れたくなった。妙な気持ちが、俺を急かすからだ。
「ええ、出ましょう・・」