偽りの恋 Ⅴ
空は快晴だった。池の水面に爽やかな風が吹く。ただ、日差しは暑い。ボートが横に揺れると、佐藤は顔をしかめる。
「揺れるのが、怖いんだ?」
「ええ、怖いわ。だって、泳げないんだもん」
一瞬、俺の心に邪気が過る。遊び心で、ボートを揺すろうと考えた。
「そっか、でも転覆したら、俺が助けるよ」
「いいえ、もう降りるわ。ね、お願い・・」
佐藤は眉を寄せ、本当に怖がっていると気付く。俺は揺するのを止めた。
「分かった。じゃぁ、戻ろう」
引き返す様子を見た坂本が、叫んだ。
「どないしたんや!」
「あ~、もう止めるよ~。岸で待っているから・・」
「ほんまに、しゃあない・・なあ」
ボートから降りて、岸辺のベンチに腰かけた。
「何が飲みたいの?」
ちょうど喉が渇いていた。
「サイダーかコカコーラ、どっちでもいいよ」
彼女はスッと席を立ち、売店へ行く。そして、サイダーを二本買ってきた。
「はい、私の奢りよ」
「あ、サンキュウ―」
俺は受け取り、直ぐに飲んだ。喉元を爽快感が伝わる。
「あ~、うまい」
「そうね、風も気持ちがいいわ」
空を見上げ、そよ風を顔に誘う。その仕草は、純な彼女を見せつける。
池の中ほどから、坂本たちの笑い声が響く。
「金ちゃん、あなたたちは外国へ行くの?」
俺の顔をまじまじと見つめる。俺はドキッとした。
「ああ、卒業したら行くつもりだ。どうして?」
「ううん、なんでもない」