偽りの恋 Ⅰ
人の生き方が違うように、恋も人それぞれに異なる。
恋は甘くほろ苦い。胸が締め付けられ、切ない思いをするものだ。
常に相手の心に切々と迫る。時には、思わぬ相手から切望される。
恋は純粋な心の動き。多々ある恋から粛清されぬものが、愛を成就できる。
だから、恋は神が与えた人間特有の悟性。
ただ、恋には嫉妬心が生まれる。
これは粛清された恋が、悪魔の囁きから修得した知恵である。
悲しい心の動きだ。絶望的な心の叫びでもある。
人を恋しく思うのは、決して恥ずかしいことではない。
幾多の女性に、俺は恋をしただろうか。
その多くは恋の奴隷となり、心の自由を奪われた。
苦しみ嘆いた果てに、自ら枷を外す。そして、二度と恋をしないと誓う。
だが、だが、寂しさを紛らわすために、次の恋を必死に追い求める。
愚かな人間の知恵は、卑劣な悪魔に導かれ、粛清された恋を身勝手に愛と認めた。
俺も認めたことがある。
虚無だけが心に残る欲望の愛だから、虚しい恋であった。
真実の恋から、普遍の愛を求めたい。
それは俺の夢であり願いでもある。
俺は故郷を離れ、異国の地に移り住む決意をする。心残りの女性がいるも、決して実らない恋と諦めたからだ。
二か月後に、寄宿生活の学校に入る予定だ。資格を得れば、念願の外国生活が待っている。